第28話 マーガムの武器
翌朝、目が覚めた私は、隣で寝ているカノアとマーガムを見つめる。
2人とも幸せそうに寝ているので、自然と笑みが溢れる。
私がマーガムの頭を撫でると、マーガムが目を覚ましてしまう。
「んぅ…。」
「あっ、ごめん。
起こしちゃったね。」
「いえ、大丈夫です…。」
私はカノアが起きるまで、マーガムの毛並みを整えることにした。
しばらくして、カノアが起きたときにはマーガムの毛並みは、さらさらになっていた。
マーガムに盾を出してもらい、昨日開けた円柱の穴に、《武器変化》で作った【神鉄】の液体を注ぎ、液体に《能力付与》で圧縮(MP最大値無制限)と加速(MP最大値無制限)を付与する。
遂に出来た。
火力が出しにくいマーガムの為の武器が。
槍と盾を合体させることで出来るロマン武器、パイルバンカー。
作ったはいいけど試運転しないのは危険なので、街の外で試運転することにした。
パイルバンカーの原理は、液体神鉄を圧縮して、蓋の部分に槍をセットしてから、連結を作動、連結したまま液体神鉄の圧縮を解除して、加速を発動、限界を越えて加速した膨張が、槍を神速で撃ち出して対象を穿つ。
というものだ。
とりあえず、作り置きの聖剣に向かってMPをそれぞれ5000ずつ流して撃ってみると、聖剣が凄い音を出して消えた。
正確に言えば、パイルバンカーが当たった部分から扇状に地面が抉れて、ちょっと聖剣がどこにあるかわからなくなっただけだけどね。
パイルバンカーの作成は成功したんだけど、問題がある。
消費MPがえげつないのと、合体させるときの隙が大きいこと。
この2つが挙げられる。
自然の力だけで貯めたら一ヶ月は余裕で必要なMPが最低値で必要になる。
それに、わりとパイルバンカーにするのに時間がかかるから、火力が足りなくて、相手が動けない時にしか使えない気がする。
とりあえず今のマーガムでは、自分でMPを補充して使えないので、MPが貯まっているときに使う“奥の手”にしてもらう。
……《剣域》が近寄ってくる人を感知する。
パイルバンカーを使用した時の音に反応して見に来たんだろう。
「誰か来るから、とりあえず逃げよう!」
「なんで分かるのかのぅ?」
「そういうスキルがあるの!」
私は、マーガムを背負ってからカノアと一緒に、全力でホゾンの街に戻った。
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ホゾンの街に戻った私達は、ギルドに向かい、とんでもない爆音の鳴った地点の調査、というクエストをスルーして、運搬系のクエストを探すことにした。
というか、クエスト出るの早いな。
まぁ、街の近くだし、そりゃとんでもないモンスターの可能性もあるからね。
今回は、私のせいだけどね。
クエストを探していると、ギルドマスターが近寄って来た。
「なぁ、お前さん達はこの爆音の鳴った地点に行ってないよなぁ?
赤い髪の人間が逃げていくのを見た冒険者が居たんだがなぁ?」
もうそれ、確信シテマスヨネ。
「あれは…、武器の練習してて、少し本気出したら、あぁなりました。」
「少しの本気で地形が抉れる訳が無いだろう?」
頭にアイアンクローを食らい、「痛い!痛い!」と叫んでおく。
「お前さんなら、全然大丈夫だろう?
なんせ、指がまったく食い込まないからな!」
ギルドマスターがやけくそ気味に言ってくる。
視界の端で、マーガムがクエストを取ってきたのか、紙を持って手を振っている。
カノアは………、指をくわえてこちらを見てくる。
……見てるだけなら助けてほしいんだけど。
ギルドマスターから解放された私は、マーガムの受けたクエストを確認した。
運搬依頼
龍の国への機材の運搬
期間 4日以内
依頼内容
魔法研究所からの機材の運搬
機材が無傷で搬入で依頼達成
…うん。
これは、私達しか受けようが無くないか?
まぁ、龍の国までは強いモンスターが出てこないみたいだから、Aランクの冒険者なら出来なくも無いのかな?
私達は依頼を受けて、機材を預かる。
《時空間収納》に機材を収納すると、驚かれるが、冒険者にスキルなどを聞くのは御法度なので、スルーして龍の国に向かう。
とりあえず今回は最速で行きたいので、いつも通りマーガムを背負う。
全力で走るとカノアですら付いてこれないので、カノアはお姫様抱っこで運ぶ。
カノアが頬をほんのり赤く染める。
なぜ赤くなっているのか、一応聞いてみると、女子扱いなんてされたことが今まで無かったから恥ずかしいらしい。
私は龍の国に向かって全力で走り始めた。
「お主、本当に早いのぅ。
お主が人間なのか疑わしいのぅ。」
「あれっ? 言ってなかったっけ?
私、聖剣なんだよ。」
「………ん?
まて、それは本当かのぅ?」
「カノアに嘘なんて言わないよ。
でも、なるべく内緒でお願いね。」
「もちろん、わかっておる。
それに、お主は嘘なんて上手く言えないだろうしのぅ。」
「えっ?
なんで分かるの?」
「強いて言うならば、勘だのぅ。
長いこと生きとるからのぅ。」
何歳なんだろうか? そう思ったが言うことはなかった。
女性に年齢を聞くのは、地雷地帯に裸で突っ込むようなものだ。
ちょうど、龍の国が見えて来たので、2人を降ろして話を終わらせる。
私達はAランクのギルドタグを見せて、龍の国に入国した。
ギルドタグがギルドカードになっていたので、確認したところは修正しました。
次回から龍の国編が始まります。




