第13話 変異種オーガと暗躍するもの
私達討伐隊は、変異種オーガを取り囲むように、展開していた。
私達は支援の人員としての同行の為、回復薬の支給や、魔法で援護する役目だ。
変異種オーガの正面と背後にSランク冒険者パーティーが、側面にはAランクとBランクの混成パーティーがそれぞれ位置につき、変異種オーガへと攻撃を開始した。
まずは魔法で遠距離から変異種オーガのHPを削っていく。
そして変異種オーガが怯んでいる隙に近接系の冒険者が突っ込んでいく。
しかし、討伐隊に衝撃が走る。
魔法が目眩ましにしかなっておらず、剣ですら弾かれる程に皮膚が硬かったのだ。
変異種オーガが刃こぼれした武器を振り回すと、攻撃を受けた冒険者達が吹き飛んでいく。
もし、刃こぼれしていなければ即死していたであろう一撃に、冒険者達の一部が恐慌状態に陥る。
しかし、高ランクの冒険者は諦めずに戦っているが、軽く受けるだけで戦闘不能になる一撃に、どんな傷でもすぐに治る高い治癒力、さらにLv5以下の魔法が効かない高い魔法防御力を持つ変異種オーガに心を折られかけていた。
私達はただ見守っていた。
一応ばれないようにマーガムとマルムに聖剣を持たせてから、私が2人を抱えて変異種オーガをちょっとだけ切ることによって、経験値は得られるようにしておいたが、そもそも勝てるかが怪しくなってきた。
それに冒険者達が気付かなかったのに、変異種オーガがこちらを目で追ってきていたので、変異種オーガは私と同じ領域にいることがわかった。
そして冒険者達が気絶やMP切れになっていく中、回復役の冒険者と私達だけが残った。
回復役の冒険者も戦えないことはないが、気絶した冒険者の回復をしてもらわないといけないので、戦力としては数えられない。
変異種オーガが目の前にいる冒険者を叩き潰そうと武器を振り降ろす。
私は覚悟を決めて、オーガの目の前の冒険者を救出してから、冒険者達をすべて回収して、回復役の冒険者達がいるところに置いてくる。
そして私は変異種オーガの前に立った。
すると変異種オーガが笑った。
「オマエツヨイ。オマエタオシテクエバ、オレモットツヨクナル!
ソノアトデ、ホカノヤツラモ、クッテヤル!」
………は?
私の仲間も喰うっていったのか?
私の中で、何が切れる音がした。
私は《剣聖》の効果を使用する。
1秒が引き伸ばされて、4秒になりステータスが2倍になる。
変異種オーガが私に向かって武器を叩きつける。
私はそれを避けつつ、刀を振るって変異種オーガを切るが、僅かに後退されて軽傷を与えるだけになってしまう。
それから私と変異種オーガは激しい攻撃の応酬によって、周囲に暴風が巻き起こる。
変異種オーガを斬る、それだけを意識して、剣を振るう。
変異種オーガの武器と聖刀がぶつかり火花が飛び散る。
変異種オーガの武器と刀がぶつかると、オーガの武器が限界だったのか、武器を切ることに成功する。
しかし、変異種オーガのパンチが一瞬で加速したため避けられずに一撃貰ってしまったが、そこまで痛くなかった。
こちらにほとんどダメージが無く、変異種オーガも受けた傷が完治していた。
《剣域》によって変異種オーガのコアの位置は把握しているが、変異種オーガもそこだけは絶対に守るだろう。
私は最速で心臓の位置にあるコアを突くために、横薙ぎに刀を振りオーガに防御させて、最速で右向きで回転しつつ、左手に持った髪の毛を《武器変化》によって、右手にもった刀と全く同じ刀を作り出す。
回転の勢いを殺すことなく防御しようとした変異種オーガの腕を切り飛ばしながら、がら空きになったコアに向かって刀を突き刺した。
「ガァアアァァァア!」
変異種オーガが絶叫をあげるが既にコアが砕けて身体の崩壊は始まっている。
しばらくして変異種オーガは砕けたコアを残して、切り飛ばした腕ごと消えていった。
返り血も消えてくれたので良かった。
そして沸き上がる喝采の声。
どうやらほとんどの冒険者が回復したようだ。
私としてはあんまり知られたくなかったのだが、そんなことは言ってられない状況だったから仕方無いと割り切ろう。
とりあえず口外しないように全員と契約魔法で契約しておいた。
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どこかの洞窟のような場所
「オーガがやられたか…」
男はオーガから送られてきた視覚情報を確認する。
「これは………聖剣か?」
視覚情報に写るのは、白銀の片刃の剣であった。
しかし、そんな聖剣は聞いたことがない。
それにあのオーガは特製のオーガだ。
例え聖剣が相手だとしても、勇者がLv100を越えていなければ勝てないレベルなのだ。
それに勝てる者が現れた。
これは報告するべきだな。
男は影に沈んでいき、その場から消えた。
男が消えた後に、洞窟内に魔法陣が浮かび上がっていった。
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私達討伐隊はギルドに帰って来た。
どうやら報告はSランク冒険者がやってくれるようなので報酬を受け取った後、私達は解散した。
私とマーガムとマルムはお腹が減ったので[食事処 平等謳う精霊亭]に向かった。
「いらっしゃいー…。」
ティーナさんは前に来たときと同じのんびりとした口調だ。
私達はお薦めを注文した。
「今回のー、お薦めはー、グレッドドラゴンのステーキだよー。」
匂いを嗅いだだけでよだれが出てくる。
さらにナイフがするりと入っていき、簡単に切ることができた。
口にお肉を運ぶと、身体の隅から隅まで電撃が走ったような感覚に襲われた。
私達は、夢中で食事をしてあっという間に食べ終わってしまった。
「お会計お願い致します。」
「今回はー、グレッドドラゴンのお肉なのでー、金貨2枚ねー。」
やっぱり安過ぎると思うんだけど…。
私は金貨2枚を払い、宿屋に向かった。
宿屋でマーガムとマルムを水魔法で洗ってあげる。
当然、私の身体も洗っておく。
身体を綺麗にしたあと、私達は小の字で眠る。
マーガムとマルムのけもみみをもふもふしつつ、私は寝た。
…幸せだなぁ。