第8話 束の間の休息
「確認も終わったようなので、1日分の休憩にしますね。」
そう管理者が言うと私の足下に魔法陣が描かれ、私は別の場所に転移させられた。
毎度のことだが、いきなり転移させたりするのはどうにかならないものか………、まぁ集中力が低下したりして負ける可能性が上がるようなことが無いならそれがいいかな。
転移させられた場所は中世の街といった感じの石造りの街だった。
しかし、人が1人もいないにも関わらず、店先に並んでいる野菜などは新鮮という、よくわからない状態の街だった。
「その街にあるものは好きにしてもらってもいいですよ。」
「!?」
いきなり後ろから話しかけられ、咄嗟に距離をとる。
《剣神》で認識が出来ないということは、高位の隠蔽スキルやそれを付随するスキルを持っているということだろう。
「………?あぁ、申し遅れました。私はこの街を管理している管理者のNo.2です。」
「私はミナ・ルシーナです。」
優雅な立ち振舞いでNo.2が私に自己紹介をしてくるので私も自己紹介を返す。
しかし、管理者はNo.が名前なんだろうか?その疑問を私は確めることにした。
「あの、あなた達管理者には名前は無いんですか?」
「そうですね。私達には創造神に付けられたNo.があるのでそれが名前ということになりますね。ちなみに私達のNo.はそのまま強さの比較になりますけど、No.1以外はそれほど変わりませんよ。この理由は他の管理者と戦っていけばわかるでしょう。」
なんか、名前に関してはスッキリしたけど、別のモヤモヤを作られてしまった。
「ここの説明をするのでついてきてください。」
そう言われて私はモヤモヤを一旦置いてNo.2の後をついていく。
「まずは食べ物関係ですね。食べ物を売っている店の中で食べたい物を言うとその料理が出てきます。他の店でも出して欲しい物の名前を呼ぶとその商品が出てきます。」
八百屋の店先でそんなことを言われたので、「チョコレート」と小さな声で言ってみたら目の前に黒い穴が発生し、中から本当に有名板チョコが登場した。
実際に食べてみると、有名板チョコの味なのでびっくりした。
「次は宿ですね。この街の商店以外の建物はすべて宿になっているのでどこで休んでもらっても結構です。」
そう言われていろんな部屋を見させられたのだが、部屋はすべてが均一ではなく、とんでもなく広い部屋から、畳一畳分の広さしか無い部屋まで、多種多様な部屋があり、それが選び放題とは贅沢だ。
「ちなみに建物とかは壊しても問題ないので、憂さ晴らしなどしていただいても結構ですよ?」
「いや、そんなことはしませんよ?」
流石にそんなことはしない。
………うっかりや、ドジを踏まない限りは………。
一通り説明し終わったNo.2はいろいろと準備があると黒い渦の中に消えていった。
ひとまず自分が泊まる部屋だけ決めてから、管理者権限“時間”が出来ることを確認しておく。
まず思ったんだけど、時間に干渉出来る権限では無く、過去に干渉する権限というのに違和感を感じる。
まぁ、未来を選ぶ権限が全生命、いや、全物質に与えられていると考えるのならば違和感はないんだけども………。
それは置いておいて、とりあえず過去への干渉がどういう物か試してみよう。
「管理者権限“時間”を行使する。」
どうやって使うのかわからないが、直感的にこう言えばいいと思ったのでそうしてみると、
過去への干渉を開始します。干渉させる範囲と時間を指定してください。
と出たので目の前の範囲を指定して時間を1秒前に設定しておき、斬撃を飛ばしてそれを過去に飛ばそうとしたとき、目の前の空間からなんの前触れも無く斬撃が現れた。
「危なっ!?」
恐らく未来の私が過去に干渉した結果なのだろう。
とりあえず設定を見直すと、どんどん時間の設定が増えている。多分さっきの干渉の辻褄を合わせなければならないのだろう。そう思って斬撃を飛ばしておく。
多分閉まっている扉を開けたりとか、物を壊したりとかは出来るだろう。だが、生命には効果が無い、もしくは薄いかもしれない。
相手が死んでいるのを指定して過去に干渉したら相手が死ぬ。というのはあまりにも理不尽だろう。
だからこそ、No.10はそれをやって来なかったのだろう。
おまけに斬撃を飛ばしたり出来る訳でも無いから強襲することも出来なかったのだろう。
つまりNo.10は自身の権限を十全に扱えていなかった。というのが私が感じたことだ。
ちなみに時間を止めるという行為は出来なかったので、No.10の保有するスキルにそういうものがあったのだろう。
もし、そうでなかった場合、権限の保有者によって権限の内容が変わるということになってしまう。
その場合は出来れば無い方向であって欲しい。
私は横になって休めるくらいの広さの宿で今回の戦闘の疲れを癒した。
そして翌日、私はNo.9との戦闘に挑むのであった。