第6話 転移させられた海那
~海那視点~
「誰もいない………、勝手に転移させておいてこれかぁ………。」
突然転移させられ、私が現れた場所は地上が見渡せるほど高い場所だった。
《剣神》の効果でなんとか浮いているのだが、もしかしてこれは降りなければならないやつなのかもしれない。
………まぁ、勝手に誘拐しているんだから、向こうからくればいいと思うので、しばらくこうして浮遊している。
向こうから来ないならいつものように空間を斬って皆のいる場所に戻ればいいと思っているため、大分落ち着いて待っている。………方だと思う。
確かに今かなり暇を持て余しているので、《時空間収納》から聖剣を取り出して自分の周りをぐるぐると回しているのだが、ちょっと回転が速いのか、私を囲むように竜巻が発生している。
流石にまずいかな?そう思って聖剣を止めると私の2mほど先にに石柱が10柱現れて円を描くようにぐるぐると回り始めた。
しばらく観察していると、石柱の描く円の中に私と同じくらいに見える女性が現れた。
「さて、早速上位世界に来てもらったんだけど、気分はどうだい?」
「いいわけあると思ってるの?」
「………まさか。」
フッと言いながら言ってきたんだけど?斬っても許されるよね?ね?
相手との距離はほとんど無いといってもいいだろう。しかし、剣は持っていないので手刀で攻撃するしかない。
私は《過程省略》を使って手刀に概念 斬撃を付与して振り抜いた。
………はずだった。
金属同士が擦れて鳴る甲高い音が鳴り響き、私の手は女性の手の甲で止められていた。さらにそこから押し込もうとしてもぴくりとも動かない。
「いきなりなんてひどいよね。まぁこれで今の実力差はわかったよね?お願い、聞いてくれるよね?」
………お願いでは無く、脅迫だと思うのは私だけか………。
「じゃあ、お願い、私達を倒して暴走し始めている創造神を倒して私達の愛する世界を守って欲しいんだけど…。」
勝手に話が進んだ上に話がぶっ飛び過ぎてて意味がわからない。
まず、創造神って誰だ?おまけに暴走って何よ?
次に私達を倒してって、管理者を全員?一番弱い管理者ですら力を出し尽くしたのにそれ以上とか、冗談じゃない。
「あ、創造神はいわゆる全世界を作った生命体って考え方で大丈夫。その創造神が対等なライバルを求めて作ったのが私達10体の管理者ってわけ。まぁ実際に戦ってみたら傷すら付けられなかったんだけどね。」
なるほど、わかった。私が戦う相手ではないことがわかった。
「どうして私が戦うんですか?」
「ミナがレベル差10000倍を倒したからだけど?管理者最強の私と創造神のレベル差ですらそこまで無いから。」
………いや、恐らくレベルが管理者と創造神とかそういう次元だと思うんだけど………。
「創造神がライバルを求めて作った世界にも関わらず、ライバルを産み出せない世界が産まれては消えを繰り返した。それに飽きた創造神は期限を設けたの。《世界の終わりが1兆回くるまでは待つ。だが、それを過ぎてライバルが産み出されなかった場合は全世界を破壊する。》と。これで唯一救いだったのは、私達が管理する上位世界のみがカウントの対象でそれ以外が含まれていなかったことだけだった。」
創造神、ぼっち疑惑浮上中………。
まぁ、それは置いておいて…、私と同じような人間が今まで1人も現れなかったというのに
少し疑問を感じる。
私は確かに特殊な死に方で特殊な血筋で特殊な転生をしたが、極低確率とはいえ、私以外にそういう転生をした人間がいない訳がないのだ。
「私以外に私と同じような人はいなかったんですか?」
私がそう聞くと管理者の目が明後日の方向を向いた。
「いや、居たんだけどねー、ミナと同じ精神構造してなかったのよ…。ほら、仲間を失った時点で戦意喪失して殺されたり、自殺しちゃったり、並列思考とけんかして思考が死んだり、そもそも剣から人になれなかったり、いろいろあってミナしか残らなかったんだよ。」
並列思考ってけんかしたりするの!?しかもそれで死ぬってことは、つまり脳死ってことになるんだろうか?とにかく恐ろしい話である。
「ちなみに創造神が世界を破壊し始めた場合、どれくらいですべて破壊されるんですか?」
「1秒だけど?」
「え?」
「いや、1秒だけど?」
いくらなんでも早すぎる…。
もうそうなったら創造神を倒すしかないのでは無いだろうか。
私が守りたい皆のいる世界を破壊される訳にはいかない。………だから私も覚悟を決めよう。
自分の為に管理者を倒す覚悟を………
「世界を破壊されたくはないので、そのお願い、受けます。」
管理者が笑顔を浮かべ、満足そうに頷く。
すると管理者の後ろに黒い穴が開き、「俺はあいつに負けてねぇ!」という声と共に若い男が現れた。
誰だこいつ………。いや、管理者なのはわかるんだけど………。
私がそう思っていると、
「あれ?見覚えない?ミナと戦った最弱の管理者なんだけど。まぁ、向こうで消えたのはこいつの意識の一つだから死んだと思っていてもおかしくはないのだけど。」
そう言われてようやく理解した。
エクスの体を乗っ取り私達を攻撃してきた管理者だ。
一番強い管理者の介入によりきっちりと勝敗が決まっていなかったが、今回は介入もされないだろう。
今回できっちりと決着を付ける。そう明確に意識して私は最弱の管理者との戦いに望んだ。