第5話 やり過ぎ
謎の店で即ワープ君3号機を手に入れた僕達は購入するために失ったレベルを上げるために街周囲の森に潜むゴブリンを一体ずつ薫さんが《影分身》で産み出した分身を囮に使って誘きだし、僕が威力を抑えたパイルバンカーの最小威力を使って一体ずつ討伐していた。
「なぁ、全然レベル上がらないんだが………、気のせいか?」
「………いや、ちっとも上がっておらぬのぅ。」
かれこれ10体は討伐しているにも関わらず、レベルが1すら上がらない。
Lv1000からLv1001になったときも上がりにくかったが、それは敵のレベルが少なかったからで、今回のようにLv10000のゴブリン10体ならレベルアップしていてもおかしくはないはずだ。
「何か、原因がありそうですね………。」
「とりあえず街に戻って情報収集でもしましょう。」
全員がその言葉に頷くと街に向かって走るが、ゴブリンに追われないように匂い袋を投げながら街に向かって逃げる。
なんでもゴブリンの感知能力はかなり高く、中でも嗅覚が断トツにいいらしく、ゴブリンから逃げるのなら匂い袋が必須なんだそうだ。
無事に街に戻ってきた僕達は代表の人にレベルが上がらないことを話してみたのだが、代表の人にも原因がわからないようで、僕達は地道にゴブリンを倒していくしかなくなってしまった。
だが、ゴブリンの討伐自体に時間はそんなにかからないが、ゴブリンを一体で誘き寄せるのに時間がかかってしまうため、今のペースでも普通ならば十分だが、それ以上を今の僕達は求めている。
「ゴブリンの巣はこの近くにあるのか?」
「えっ?………あぁ、はい。西の森に大規模なゴブリンの集落がありますね。ですが、あまりに大きい集落である上にその向こう側に街もないので、我々でも集落から出てきたゴブリンを討伐するだけしかしていない現状ですよ?」
なので、まとめ狩りをするために集落の情報が必要になる。
「その集落は跡形もなく消しても?」
「はい。大丈夫ですが、そんなこと出来るんですか?」
「そうだのぅ、まぁ、周囲の地形が原形をとどめることはないだろうのぅ。」
カノアさんがそう言うと仲間の視線が僕に集まり、代表の人が「そんなバカな…」と言わんばかりの目で僕達を見てくる。
仲間の視線はパイルバンカーの最大威力を撃てという目で僕を見てくるのだ。
流石に最大威力だとどうなるかわからないので、ちょうど中間の威力で撃つことにしているが、もしダメだったらディアスに協力してもらい、即威力を上げた2発目を撃つことになるだろう。
「とりあえず許可も取れたし、掃討しに行くか。」
「そうだのぅ、わしらがやるのはマーガムを守ることだけだからのぅ…。暴れ足りないのはあるのぅ………。」
「レベル差9000は最低でもあるんですから、少しくらいなら残るんじゃないですか?」
「我は戦わなくていいならそれでいい。」
そんなことを言いながら僕達は街の西側の森が見える地点にやって来た。
僕達が何をするのか気になった代表の人や、住人が結構な人数が街を囲む壁の上から僕達を見ている。
薫さんが《影分身》で産み出した分身を使って森を偵察して、集落がある正確な位置を確認する。
その間に僕はパイルバンカーの準備をする。
盾に槍をセットして内部の液体を圧縮していき、ゴブリンの集落がある方向に向ける。
薫さんに方向を微調整してもらってから、威力などの最終確認をしてから撃ち放った。
空気や空間が割れる。そんな音すら小さく聞こえる程の轟音。それがパイルバンカーの射線上から響き渡る。
パイルバンカーの音を聞いてしまった街の人達が気絶してしまう程の威力があり、パイルバンカーの轟音を何回も聞いている僕達ですら、一瞬意識が飛んでしまった。
そして、そんな音響兵器としての効果をも保有した攻撃の直線上に存在したすべては塵すら残さずに、この世から消滅した。
………というか、目に見える光景がすべて変わっていた。もちろん直線上はすべて消滅しているのだが、そもそもパイルバンカーから扇状に地面が抉れ、木々は薙ぎ倒されていて、数秒前にあった景色のすべてが破壊されていた。
思惑通り、僕達のレベルは上がった。それも急成長というレベルで。なんと、6500レベルまで上昇していたのだ。
しかし、やり過ぎた感が否めない。そう思っていると、気絶していた住人達が目覚め始め、目の前の光景に驚き、また気絶した。
「まぁ、目標は達成出来たからいいか。」
「そうだのぅ、あとは暴れられれば文句なしなんじゃがのぅ………。」
「………!!レベルが上がったということはより過激なプレイをしてもらえるということでは!?!?」
「………はやく帰りたい。」
どうやらこの状況に危機感を覚えているのは僕だけのようだ。
………下手したら世界の敵に認定されそうな状況だけど、皆がいればどうにかなるのかな?
せめて僕くらいは気をつけておこう。
そう思いつつ、気絶した人達が目覚めるまでその場で待つことにした。
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「あれ?あの子達、やばくない?なんであのレベルであの威力が出せるの?私達がアイテム渡しても大丈夫なようにレベル引いた筈だよね?」
「そう、だね…。ざっと、Lv10000のゴブリンを1000体は倒さないといけない経験値をLv1000だけ残して足りない分は獲得経験値からマイナスしてたはずなんだけどね?」
東側の壁から見ていた2人の男女は顔を青ざめさせる。
「はやく戻って報告しなきゃ!」
「だね!僕達の責任は免れないだろうけどね!」
その言葉を残して2人はその場から消えていった。