第41話 【憤怒】
「………これは貰うぞ。」
創造主が粒子になって消えていき、後ろにいた人物が姿を現した。
「エクス………!」
それは勇者の神の名であり、そこにいてはならない神の名であった。
「くふふふ、やった、やっとだ。遂に創造主の力を手に入れた!」
そう言うと宝玉を自分の胸に押し当てた。
もちろんそれを呆然と見ている私達では無い。
無いのだが、何処から出てきたのか邪神がこの空間に出現し、私達の邪魔をしてくる。
私達は障害となる邪神を一瞬で排除するが、その一瞬でエクスが宝玉を取り込んでしまう。
その瞬間エクスから辺り一面が吹き飛ばされるほどの風が吹き荒れる。
私達はそれぞれ風を切ったり壁を作ったり打ち消したりして防ぎつつ、反撃へと転じる。
一番最初に反撃したのはお父さんだった。
風を打ち消す弾を撃ち放ちつつ、その弾の後ろにもう1つの弾が追従することで、エクスに向かって真っ直ぐ飛んでいく。
そして同じように弾を連射していく。
次がお姉ちゃんで、人形を何処からか取り出し壁を作りつつ数体を攻撃に向かわせる。
どうやらそれら全てに莫大なエネルギーが貯蔵されているようで、風に吹き飛ばされることなくエクスの元に向かいエクスを爆破する。
私は仲間だった者に攻撃することを躊躇っていたので風を神刀と神剣で斬ることで風を無力化するだけだった。
風が収まると、エクスの肌に不思議な紋様が現れていた。
さらにさっきの攻撃は無かったかのように傷は回復していて、右手には得体の知れない黒い剣が握られていた。
「?お前達の強さはこんなものじゃ無いよな?」
そう言ってエクスが右手を横に一閃する。
すると剣が通った場所がズレて、ズレがそのままこちらに飛んできた。
私達の誰も受け止めることはせずに上空に回避し、次の攻撃を警戒する。
誰にも当たらなかったズレが山に接触すると、接触した地点からズレの延長線上までもがズレて土砂崩れを起こす。
もし防御していたら私達も真っ二つになっていた可能性がある。
「こんなのは序ノ口だ。次はこういうのはどうだ?」
エクスがそう言うと、先程と同じように邪神が出現した。
その邪神とエクスを繋ぐ力の線が見える。そして私はそれを少し前に見たことがある。
それはレムナが行使していた力である。
………まさか、まさか!?
「お?気が付いたか?これはレムナの大罪の能力だよ。喰って手に入れたんだ。いやぁ、ありがたかったぜ?お陰でここまでの力を手に入れられたんだからな。」
喰って………、それは恐らく封印したレムナを封印したまま食べたということだろうか………?
「海那、あなたの考えていることは大体わかるけど、多分、それで合っているわよ…。残念だけどね。」
レムナはまだやり直せるかもしれなかったのに………、それなのに、力を手に入れる為だけにその未来の可能性を潰した?
それは私にとって到底許せる行為ではない。
それに勇者が欲望に飲まれていることにも理解が出来ない。
そして私が感じたのは久しぶりに感じる怒りだった。
それを最初に感じたのはマルムが邪神の眷族に殺された時だ。
それと同じくらい、私は怒っていた。
「エクス、私はあなたを許さない…!」
狂うような激しい怒りでは無く、静かなしかし燃えるような怒りが私にはあった。
絶対にやったことを後悔させる。
私はエクスに対して攻撃することへの躊躇が一切無くなっていた。
「お父さん、お姉ちゃん、エクスは私がぶっ倒すから、手を出さないで。」
2人共が頷き、私の後方に陣取った。
私は神刀と神剣を合体させて聖炎大神剣にして構える。
大罪として、【憤怒】を持っていない上に普段怒ることなどほとんど無い海那が激しい怒りを自覚した時、海那の中に本来起きるはずの無い現象が発生した。
【憤怒】が大罪として登録されたのである。
本来産まれた時にのみ登録される大罪は、変えることや、減らすこと、増やすことは一切出来ない。
にも関わらず、海那には【憤怒】が登録され、さらに【憤怒】を完全に制御していたのである。
「お、ミナだけか?全員で来てもいいんだぜ?まぁ、全員倒して全員喰らうのは決定事項だがな。」
「私だけであなたを倒すよ。」
《過程省略》で一気に距離を詰めて上段から一気に聖炎大神剣を振り下ろす。
【憤怒】の能力は自身の狂化だ。
完全に制御出来ている為、攻撃が当たる一瞬だけ狂化することで狂うことなく戦闘することができる。
なので斬ったという事実だけを与える《過程省略》では真価が発揮出来ない。
概念 加速の効果と《過程省略》で移動速度は既に音速を超えはじめ、さらに狂化と同じタイミングで《限界突破》を使用することで攻撃の威力を上げると同時に攻撃速度は光速にまで到達する。
音速を超える速度で移動し、強力な一撃を連続でエクスに当てる。
だが、時を戻したように傷が治るスキルを持った邪神がいるらしく、エクスの傷はどんどん回復していく。
それでも攻撃と止めることなく、さらに速度を上げていき遂に到達した光速の領域。
私の残像が発生しているが気にしている場合ではない。
それよりもエクスの回復速度を遂に私の攻撃が超えたことでエクスから余裕の表情が消えた。
「ぐっ!?なんでこの回復スピードを超えてくるんだよっ!!」
私もこんなパワープレイが出来るとは思わなかったけど、わざわざ邪神を倒すようなめんどくさい工程を飛ばせたのはよかった。
エクスが不満を叫んだとき、エクスに向かって雷が落ちてきてエクスに直撃したのだった。