第39話 母親2
呼び出されたのはアルトの家だった。
チャイムを鳴らすと扉が開き、アルトが中に入るように促してくる。
「で、なんの用件だよ?」
「大事なことだからちゃんと入って!」
いつもは適当な感じなのに、今回はかなり真剣な様子で引っ張ってくる。
珍しい様子に引っ張られるままになってしまう。
すると急に風景が変わり、家の中から真っ白な空間に変わった。
「ここでなら話せる…。」
「よし、何をやった?」
また誰かを異世界に飛ばしたのか?
「ちがうよ?!私が神様だってことだよ!」
「………?知ってるが?」
こんな場所に自由に行き来できる時点でそこら辺の存在だろうに。
「………えっ?で、でも私がその中でも最強なのは知らないでしょ?!」
「…あー、そんな気はしてたけどな…。」
まぁ、なんとなくだったが。
「ま、まぁ、茶番はこの辺で終わります。」
始めたのはアルトだけどな。言わないけども。
「私は創造主であり、暗滅主とも呼ばれる存在なの。それぞれが神と邪神の最強の階級なんだけど、私はその両方なの。」
確かに神と邪神の両方の最強を持っているのなら、最強と言ってもおかしくはないか。
「その最強の階級の証明になるのが、心の中にある大きな扉。それがあって初めて最強の階級を得ることが出来るの。」
確かに俺にはそんな扉は無いだろうし、どんな物かも想像もつかない。
「その扉を持つ者を殺すことで殺した神にその扉が移るの。今は私が対抗勢力を抑えているから大丈夫だけど、抑えられなくなったら空くんがターゲットにされるかもしれないの。」
………なにそれ、怖い。
ただ、考えられないことでもない。
「だから空くんには強くなって欲しいの。」
「で?どうするんだよ。」
まだ死ぬような年齢じゃないからな。
出来ることならやっておきたい。
「超特訓して神様になってもらいます。」
その超特訓の内容は省くが死ぬかと思ったこと、そしてそのお陰か俺は神になっていた。といっても上級上位だったのだが…。
そして超特訓が終わってからしばらくしてから地那が誕生した。
喜びも束の間、ある問題が発生した。
「ねぇ空くん…、暗滅主の扉が無くなっちゃった………。」
「まさか………、地那に、移った?」
確認は出来なかったが、そんな確信があった。
なんとかアルトの弱体化を他の神や邪神に悟らせることなく、俺達は日々を生きた。
それでも未来で困ることが無いように邪神に協力者を作ることにした。
といっても俺達に何かあったときに地那を育てて貰えるように頼んだだけだが、幸いアルトと仲の良かった邪神が《契約》してくれたので、一応安心することが出来た。
《契約》は俺のスキルの1つで双方が納得したのなら絶対に遵守させるという強力なスキルだ。
そして3年後に海那が産まれた。
その時にアルトから創造主の扉が無くなった。
またしても受け継がれた扉、弱体化したアルト、この2つを隠し続けることは出来なかった。
3年はうまく誤魔化せていたのだが、何処からか情報が漏れてしまっていたらしい。
最上級上位の神共が俺達の世界に攻めて来た。
俺とアルトは激戦の末、別れて逃げることになり、俺は海那を連れて、アルトは地那を連れて逃げた。
海那を比較的安全な場所に避難させて、俺がアルトの元に向かいアルトの元に到着した。
だが遅かった。
俺が到着した時、それはアルトが地那を転移させながら戦鎚に潰される瞬間だった。
その時のことは明確に覚えている。
恐らくそれは地那も一緒だろう。
そして創造主になる仕組みを知らない今の偽物が創造主を名乗るようになった。
だが悪いことばかりでは無く、地那は邪神がしっかりと育ててくれているようだったし、海那も元気に成長していた。
そして俺は今回の計画を立てて時が来るのをまっていたのだ。
そう全て………俺から、いや、子供から親を奪った全てを殺すために………。
~海那視点~
そうお父さんが話終えると、私から目を反らしてしまう。
「偽物と戦わないというのなら、学校………いや、元の世界に戻れるようにするが、どうする?」
そう聞かれてもよくわからない。
ぶっちゃけると、創造主の証があの扉であることの辺りで私は頭がいっぱいいっぱいだ。
それなのに、お母さんを殺したのが創造主を名乗る偽物なんて情報が入ってきたため、軽くパニック状態になっている。
それでも、これだけは思う。
私自身には今の創造主に対する恨みは無い。
なので、お父さん達が復讐するのを止めたり妨害するつもりは一切無い。
だが、お父さんやあんまり実感は無いけどお姉ちゃんが傷つくのは見過ごす訳にはいかない。
一番大切なのは家族だ。
今となってはかなり多くなったが、家族を守れないのなら、私が強くなったことに意味が無くなる。
だから、私は選んだ。
「お父さん、私、お父さん達と一緒に戦うよ。」
「そうか。すまんな。」
お父さんが少し寂しそうに、だがそれより僅かに嬉しそうに答えた。
「準備はいいか?」
「もちろん。」
そう言うと私達は創造主と戦う姉の元に転移した。