第32話 月島 空
~ミナの父 月島 空視点~
「おい、クウなんで転移なんてしたんだ?」
同じ最上級上位の神が聞いてくる。
「………あそこで戦うと被害がでかい。」
コミュ障の俺にそんなこと聞いてくるな、テンパるだろ。
クウは異世界にいたときの名前なのだが、異世界から戻った時にソラに戻しても他の神が認知していないのか、クウとしか呼ばれない。
俺がまともに話せるのなんて、12年前に死んだ俺の嫁と家族くらいのものだ。
なので、馴れ馴れしく話しかけてこられるのは嫌いだ。
だが悲しいかな、家族とすらまともには話せていないことの方が多いのだった。
さっき言った理由なんて建前だ。
本音は海那のいる場所を戦場にしたくなかったからだ。
しかし、邪神を2割ほど残してしまったのだが、海那なら問題無く勝てるはずだ。
問題はこっち側の方が多い。
出現した邪神の8割をこちら側で倒す必要があるが、こちらの数が少ない為、かなり厳しい戦いを強いられるだろう。
俺は《時空間収納》からハンドガンを取り出す。
もちろん見た目がハンドガンなだけで、素材や威力などがハンドガンの比ではない。
素材はもちろん神鋼で出来ているし、それに弾丸は神鉄製だ。
威力は一発で山が吹き飛ぶほどの威力がある。
さらに概念や魔法を付与することも出来るので、戦略の幅が大きい。
そんなハンドガンを両手に1挺ずつ持ち、邪神に向けて引き金を引く。
すると弾は直線に飛んでいくのだが、邪神が弾を避けた途端に弾が急に角度を変えて邪神に向かって飛んでいった。
弾が当たった邪神は苦悶の声を上げるが、周りの邪神はそれを笑っていた。
だが次の瞬間、その笑い声が凍てついた。
突如として邪神が叫び出すと、俺の撃ち放った弾が邪神の体内で分裂し、全ての邪神に向かってそれぞれ飛んでいく。
分裂した弾は何かに当たっても減速することなく、むしろ加速して邪神に向かっていく。
何体かの邪神は弾を止める事が出来た様だが、それ以外は全てが致命傷になり、この場にいる邪神の9割程が消滅した。
だが、そんな程度で喜んでいる暇は無い。
さっきの攻撃は俺にとっては様子見の攻撃だったが、初見殺しかつ、残っている神の全力の攻撃と変わらない威力なのだ。
それを防がれたということは、俺以外のこの場にいる神では勝ち目が非常に薄い。
だがそれを理解していても、最上級上位の神が撤退することはない。
ここで撤退してしまえば、自分よりも階級の低い神にナメられてしまうからだ。
だが、残った1割の邪神の中でも1柱だけ、他の邪神と違う気配を発している邪神がいる。
あいつだけは俺が相手をしないといけないだろう。
他の神達が邪神との戦闘を開始したのを確認した俺は、気配が違う邪神との戦闘を開始した。
他の神からは視認することすら不可能な加速された戦闘がそこで行われていた。
邪神から放たれた矢を銃弾で撃ち落とす。
やはり感じた通りこの邪神は強い。なので、強邪神と呼ぶことにした。
強邪神の攻撃は俺をコピーしているかのように俺とそっくりだったが、まさか弓矢が銃の連射速度についてくるとは思わなかった。
もしかしたら強邪神の方が俺よりも早いのかもしれない。
とはいえ、片手だけでの話なので、両手を使えば勝てる。
だが、片手は他の神の援護で忙しい。
それに、この強邪神の攻撃にはかなり驚かさせられている。
一番驚いたのは、弾を分裂させたら矢も分裂して相殺されたことだ。
スキル構成や使える概念がかなり近いのだろう。
だが、負ける訳にはいかない。
俺の援護もあってか、他の神達には余裕が出来てきたのか、複数対1で戦うようになっていた。
俺はその様子を見て思わず舌打ちする。
その光景は昔見た光景、あの時は何も出来なかったが、今は違う。
僅かに感じた怒りを抑え、冷静に弾を撃ち放つ。
強邪神も他の邪神が倒されていくのを理解しているのか、攻撃は激しくなっていく。
だが、その攻撃の精度は甘く、わざわざ撃ち落とさなくても、回避できる程のものだった。
だが、あえて撃ち落とす。
すると撃ち落とす為に放たれた弾丸に吸い寄せられるように矢が軌道を変えた。
最初に俺がやった攻撃と同じようなことを向こうもやってきたのだ。
安易に突っ込んでいたら死んでいただろう。
思い通りにいかなかったことに怒りを感じたのか、強邪神から放たれる矢の威力が上昇した。
おそらく強邪神の罪は【憤怒】だろう。
その罪を積み上げることで、さらなる力を得ているのだ。
さらにその怒りがかなり強いもののようで、先程までとは段違いの威力になっている。
だがこちらもようやく両手での応戦が可能になるまで邪神の数を減らすことが出来た。
俺はなんとか二挺のハンドガンで応戦するが、矢1発に対して、銃弾が2発でようやく撃ち落とすことが出来る状態なので、かなり厳しい。
だが、勝ち目が無いわけではない。
まだ全力では無いというのもあるが、それ以上に狂邪神の状態は長続きしない。
なので持久戦に持ち込めばいいのだ。
だが、そんな考えがすぐに出来なくなることにこの時の俺は気が付いていなかった。