第31話 暗滅主
~アンス視点~
第一段階の創造主と共に私が用意した空間まで飛んでくることが出来た。
ここまでは協力者のおかげでスムーズに進んでいる。
手筈通りなら、ミナ………あの神が唯一「巻き込みたくない」と言った少女は一番小規模な戦場にいるのだろう。
私もあの子には、懐かしさを感じている為にそれを許可したのだが、それでも私達の戦力は邪神のほぼ全員を動員したもので、小規模とはいえ生き残れるかどうかは、あの子次第だ。
「さて、それじゃあ、始めましょうか。」
その言葉が戦闘開始の合図となった。
私が手を掬い上げるように動かすと、創造主に向かって地面が抉れていく。
創造主がどこからか出した戦鎚で抉れた地面を潰すと、戦鎚から金属を引っ掻いたような音が響き渡る。
私の武器は伸縮自在、硬度も思うがままの神鋼で作られた糸だ。
私にとってはこの糸こそが、私の神剣なのだ。
私が大切なあの人から託された全世界に1つしかない武器だ。
その糸が戦鎚とぶつかり火花を散らす。
あの人を殺した創造主をあの人から託された武器で倒す。
あの人はそれを望んではいないだろうけど、………だけど、私がそうしなければ前に進めない。
とはいえ、邪神になったときに私の復讐が達成した時のことを知って、前に進めないことも知ったのだけれどもね…。
私は来るべき時の為にずっと、ずっと待ち続けた。
そして私はどんどん強くなっていき、そして、先代の暗滅主に挑んだ。
しかし、結果は惨敗だった。
だが、先代は私を殺すことなく育て始めた。
そこで知った、私達が生きる世界の仕組み、そして、あの人がどういう存在だったのかを知った。
そして先代に育てられてしばらくが経過した時、私は遂に先代を越える程の力を手に入れた。
そしてその時に聞いた真の暗滅主になる条件が、ぴったりと私に当てはまることに気が付いた。
しかし、真の暗滅主と真の創造主、神と邪神という違いこそあるが、その条件が同じとは不思議なものだ。
そんなことを思ったことを覚えている。
ある時、先代にどうして最初に私と戦った時に私を殺さなかったのかを聞くと、私が真の暗滅主になるための条件を満たしていて、さらに自分が知っている神と目が似ていたからだと言われた。
そんな優しかった先代ももういない。
先代が消滅する寸前に託された願いは、世界をあるべき姿に戻すこと。
だから、この戦争で真の創造主の条件を満たした者を見つけ、真の創造主になってもらう。
その上で世界を元の状態に戻してもらう。
もちろん、そうしないのであれば、私の力を全て使ってでも真の創造主を倒して、次の世代に受け継ぐだけだ。
私は自分の罪【無知】を積み上げて能力を上げていく。
偽物とはいえ、創造主と名乗るだけあってその戦闘能力は凄まじく、押されるまではいかないが、拮抗していた。
私の職業は人形使い。
それは糸を接続した物を動かしたり、爆発させたり、魔力などを吸収したりできる職業だ。
さらにスキルも、
《過程追加》
相手の行動等に対して、自分の行動もしくは、相手の行動を追加させることが出来る。
ミナの《過程省略》とは真逆のスキルで、行動が終わったタイミングで僅か0.1秒タイムリープし、行動前に戻り、そこで初めて過程を追加するというもの。
同等の力を持つもの同士なら、《過程省略》と相殺される。
《人形製造》
魔力を任意の量消費して人形を製造する。
《糸神》
糸を使っているとステータスが上昇し、認識範囲の拡大、さらに思考速度が上昇する。
といったスキルがあるため、人形を使えばもっと強くなる。
さらに《限界突破》に《極限突破》もあるので、負ける気はしない。
私が人形を手始めに100体製造し、創造主へと向かわせる。
すると創造主が視界から消えて、気が付いた時には眼前まで迫っていた。
私は《過程追加》を発動して、邪神の構える動作を追加させることで、なんとか直撃を免れる。
だが、あんまり悠長に戦っていると他の戦場が終わってしまうかもしれない。
そうなると、真の創造主を探している時間が無くなってしまう。
それだけは避けなければならない。
だが、創造主も全力で向かってくるので、私も《限界突破》を使って全力で戦っている。
それだと拮抗した状態を越えられないので、私は真の暗滅主が持つ力を解放する。
心の中に存在する、とんでもなく大きい扉。
その扉をごく僅かに開いた。
闇が私の身体を蝕んでいく。
闇は糸を伝い、私の人形を歪に変身させた。
まるで子供が粘土で作った悪魔のような見た目だが、その能力は先ほどまでとは格が違う。
先ほどまでは創造主の戦鎚に吹き飛ばされていた人形が戦鎚を受け止めるようになったのだ。
人形100体による容赦の無い攻撃が創造主を追い詰めるが、致命傷を何らかのスキルで回避されているため、倒すまでには至っていない。
私が創造主を倒すに倒せずにいると、創造主の近くに人が1人通れそうな空間の穴が開いた。