第30話 戦争の始まり
空が割れた。
すると割れた空間から数えきれない程のたくさんの影が闘技場に降りてくる。
ほどなくして、誰かが叫んだ。
「邪神だ!」
その瞬間、闘技場にいた神のほとんどが学校へと避難しようとする。
だがパニックになってしまっているため、スムーズな避難が出来ず、怪我をする者も出始めた。
私達審査員席にいる神は全員が戦闘態勢を一瞬で整えると、邪神がどう動いても対処出来るように構える。
私もヴァーンとレイテに神剣形態になってもらい、転移してきたセイスにマーガムと一緒に避難誘導してから逃げるように伝える。
現在、邪神の階級と個体数が未知数な上に、学校に出てきた意図がわからないので、私達最上級の上位の神が先頭に立って戦うことになった。
「こんばんは………かしら?会いたかったわよ、偽りの創造主…!」
割れた空間から怒りが滲むような声が聞こえた。
………この声には聞き覚えがある。
私よりも確実に上の階級の邪神だ。
私は今回は対等、いや、それ以上に戦ってみせると決意する。
それにしても、偽りとはどういうことだろう?
その声を聞いて僅かな反応をする神が2柱いた。
片方は私のお父さん、もう片方は創造主だ。
お父さんの方は私でしか気がつかないほどに僅かな反応だった。
だが、創造主は明らかな反応を見せている。
身体が震えていてどこか挙動不審だ。
それに、「まさか、生きていた?いや、そんなはずは………」という発言をループしている。
「私は偽の創造主、あなたに決闘を挑むわ!」
そういうと邪神が割れた空間から闘技場に降り立った。
その顔には私と話していた時とは違い、寂しさではなく、強い憎悪を感じる。
創造主はそんな邪神を見て、より一層身体の震えが激しくなった。
「………こ、断る!」
震える声で紡いだ言葉に私を除いた審査員以外が創造主を見た。
決闘すれば犠牲を出さずに勝てるだろう。
もしくは、創造主なら勝てるはずなのに…。
にも関わらず、どうして総力戦になるようなことをいってしまうのか、そういう目だ。
「そう、なら総力戦ね?あなたはやっぱり偽物よ。」
残念そうに言ってはいるのだが、どこかでその回答を予測していたのか、結構な棒読みだった。
「私はアンス、今からあなたを殺す暗滅主よ。」
淡々と自己紹介をすると、アンスは創造主の眼前に出現し、創造主と共にどこかに消えてしまった。
それと同時に邪神達が攻撃を開始した。
それに僅かに遅れてお父さんが審査員席にいた神と共に邪神の8割を巻き込み、別の空間に転移した。
Sクラスのメンバーの内、マーガム、セイス、クレーメさん、ガリアとラーディス、それにコランが避難誘導をしていて、エクスとミスターGはどうやら戦闘に参加するようだ。
レムナは姿が《剣神》の範囲内にいないのか認識出来ない。
残り2割とはいえ、その数はまだまだ膨大だ。
私は今のままだと押し切られると考え、聖剣を出せるだけ出してその全てを《剣神》で操作する。
邪神の強さは私からすれば大したことはなく、順調に倒していたのだが、私以外の戦うと決めた神達にとっては強敵なのかかなり押されてしまっている。
避難する非戦闘の神達がマーガム達に守られながら闘技場から学校に避難し終わり、マーガム達も戦闘に参加し始めたことで、押されていた戦況をなんとか押し返すことに成功する。
だが、邪神達に変化が現れ、以前と同じく時を巻き戻したように何度も復活するようになり、再び私達が押され始めた。
しかし、私には邪神達に何らかの力が送られているのが見えた。
そしてその力が送られてくる場所を見てみると、そこにいるはずの無い神がいた。
「レムナ………、なんでそこに?なにを………やってるの?」
私が問いかけるも、レムナは何も答えずに私に向かって黒い何かを飛ばしてきた。
射線上に立ってしまった神が黒い何かに当たると、急に眠ってしまった。
他にも当たった神がいたのだが、眠らさせられるだけでなく、やる気を無くしたかのように立ち尽くす神もいた。
どういう攻撃なのかを考えると、思い当たることがある。
レムナはずっと怠けていた。
つまり、罪が怠惰なら、レムナはかなり罪が大きくなっているはずだ。
「じゃあ、いくよぉ…。」
レムナが寝たままの態勢で指を少し動かすと、邪神が一斉に攻撃を開始した。
だが、レムナが動く気配は無い。
「どうして?レムナ!」
だが、レムナが反応を返すことは無く、レムナによって強化された邪神が私達に向けられるのみだった。
私は《時空間収納》から黒神剣を呼び出して、いつかのように取り込んでもらおうと思っていたのだが………。
《時空間収納》から取り出した黒神剣から闇がまとわりつき、その闇から人の顔が見えては消えてを繰り返していた。
本当は持ち続けるのも怖いけど、手を離したら黒神剣がどこかにいってしまうような気がして、私は恐怖に耐えながら黒神剣を握り続けた。
そして時を同じくして、他の戦場も混迷を極めるのだった。