第20話 邂逅
《剣神》の認識範囲内に邪神がいなくなったことを確認した私は、マーガムや皆と合流した。
私以外全員がボロボロなのだが、被害は服だけで体にはかすり傷が出来た程度のようだ。
最後に消えた邪神の行方と強さはわからないが、戦うことになっていれば間違いなく私しかまともに相手出来なかったはずだ。
何せ、《過程省略》を使って攻撃するよりも早く自分を闇で包むなんて芸当を見せられては、私の階級よりも相手の階級の方が高いと思ってしまう。
私よりも階級が上って言ったら、最上級の上位、もしくは暗滅主、そのどちらかしかいないけどね…。
ともかく皆に被害が無くて良かった。
だが、問題はまだある。
邪神、それも上級の中位クラスを1000柱以上取り込んだ黒神剣が刀身を黒く輝かせているのだ。
「クロス、大丈夫?」
心配なので話しかけてみるが、返事は無かった。
だが、黒神剣の柄の部分がほんのり熱くなっているので、またしばらくしたら声をかけてみることにした。
「とりあえず全員無事みたいですね。」
「そうですわね。でも、ミナさんの戦い方はとても真似出来るものでは無いですわね。」
エクスや他の皆も首を縦に振って同意している。
「あんなのやりたくても脳の処理が追い付きませんわね。」
私の場合は《並列思考》と《剣神》の合わせ技だからスキル次第では出来ると私は思ってる。
「っと、ラーディスも目が醒めたんですね。」
「うむ、迷惑をかけた。」
ラーディスによると、龍の強い思念に呼び寄せられたようだ。
それってつまり、クリアのせいで気を失わさせられたってことだよね?
クリアに文句の1つでも言ってやりたいが、もう消えてしまったからいるのかすらわからない。
まぁ、今度会ったときにでも言うとしよう。
そのあとは特に襲撃なども無く、私達は天使が来るのを待つことにした。
しばらくすると全員の足下に転送の魔法陣が現れた。
「天使の方はこないんですのね!?」
クレーメさんが叫んでちょうど言い切った瞬間、私達は転送された。
転送された私が《剣神》で周囲を確認すると、私の後ろに1人だけいるのを認識した。
私が振り返ると、そこには先程の邪神がそこにいた。
邪神は私と同じくらいの年齢に見える。
黒いマントで顔以外の全身を覆っているので分かりにくいが、僅かに見える白い髪の毛と見えている顔は女性に見える。
私は《過程省略》を使った攻撃が防がれたことから、警戒心をあらわにする
「そう警戒することないわ、私はあくまで話がしたいだけなのよ。」
「それを、信じろと?」
体が神剣で出来ているため、汗をかくことが無いはずの私が、頬に汗が伝っているような感覚に襲われる。
「あなたの問いに興味は無いわ。私が知りたいことだけに答えなさい。」
目の前に邪神から凄まじいプレッシャーが放たれている。
「まずは、あなた、どうして戦っているのかしら?」
「………、私は、守りたい仲間を、守る為に、戦っている!」
プレッシャーで口すら動かしにくい状態たが、はっきりと意思を、決意を込めて答える。
「そう…、でも、それならあなたは私達側ではないかしら?」
私の回答を聞いた邪神のプレッシャーは弱くなり、一瞬どこか寂しそうに感じた。
「私は、出来れば邪神とも戦いたくありません。」
「ならなぜ、先程私の下僕達を倒したのかしら?」
今のルビと文字、本当なら逆じゃない?
いや、ルビとか見えないからなんとなくだけど…。
「無抵抗主義では無いですし、私の守りたい人が襲われているのを助けただけです。」
「………そう、わかったわ。」
再び、だが今度はさっきよりも僅かに長く寂しそうに感じた。
「これが最後の質問よ。もし、あなたの仲間が全員殺されたとしたら、あなたはどうする?」
「…考えたくも無いです。」
「考えなさい。」
どこから飛んできたのか、私の腕に鉄の槍が刺さっていた。
「っぐぁ!」
痛み、長い時間感じることが無かったその感覚が、私の腕から伝わってくる。
「次答えなかったら、腹を刺すわ。」
《剣神》でも攻撃が認識出来ていないので、答えるしか生き残る道は無いだろう。
「………私は、復讐するかもしれません。だけど、もう二度とあんな、あんな悲しいことは起こさないと誓ったんです。」
私の仲間は私が守る、そう誓っている。
「だから、私は何があっても、守りたい仲間を守ります。」
「………、あなたは必ず、いえ、これ以上は野暮ね。」
邪神は遠くを見つめる。
「あなた、私が知ってる奴に似てるわ。」
「えっ?」
私に似た経験をした邪神がいるのかな?
だが、目の前にいる邪神が私に視線を戻した時、邪神に寂しそうな雰囲気は一切無くなっていた。
「とりあえずあなたを元の転送先に戻すわ。」
向こうにバレると面倒だし、と言いつつ、邪神は私の足下に転送の魔法陣を書いた。
「あなたも、このことは黙っておきなさい。」
邪神が言い切るとすぐに私は転送された。
転送された先は、学校だった。
そこには転送された皆がいて、どうやら私が邪神と話していた時間は止まっていたかのように短くなっているようで、皆が転送されていて私だけが遅れて転送される、なんて事態にはなっていなかった。
少し経ってから現れた天使に今回の評価を言い渡され、セイス以外の全員が合格とされ、特に私は、すぐに卒業できると言われたが、マーガムやセイスと一緒に卒業したいので、マーガムとセイスが卒業出来るまで待つことにした。
それにしてもセイスは一体どこに行ったのだろう。
このままだと退学になるかもしれない。
それはセイスの主人として容認できない。
とりあえずセイスが戻ってこないと話もできないから、セイスが帰ってきたら話そう。
そう思った私はマーガムを連れて自分の宿舎に戻るのだった。
~邪神視点~
ソファーに座り、1人呟く。
「あの子、やっぱりあいつに似ているわ…。」
強く、仲間思いで、そして、すべてを失った優しかったあいつに…。
今の私は強くなった。
それはもう、果てしなく強く。
けど、あいつはもう………。
「あの子がどういう道を辿るのか、しっかりと見せてもらうとするわ。」
懐にしまっていた水晶をテーブルに置き、水晶を覗くと、あの子が客観的な視点で映る。
私は来るべき戦いに向けて準備をすると共に、あの子の観察をするのだった。