第19話 包囲
皆を襲っている邪神の数は、《剣神》で把握出来るだけでも1600を越えている。
これだけ居ればすべてが上級中位の実力だったとしても、最上級の中位の私と互角以上に戦えるはずだ。
そのほぼ全てが私に向かって襲いかかってきた。
「さすがにこの数は厳しいでしょ………。」
皆が結界の中で籠城しているので、逃げる訳にも行かないが、真っ正面から戦うのもさすがに厳しいと思う。
私は逃げながら、先程クリアからもらった神剣を敵から飛んで来る攻撃の迎撃に使っているのだが、私と相性が悪いのか概念 闇が発動せず、少しだけダメージをもらってしまう。
「とりあえずこの剣の名前くらいは教えて欲しかったな…。」
神剣なのだから、神刀や神剣のように名前が必ずあるはずだ。
それに、もしかしたら人格が芽生えているかもしれないから、ヴァーンやレイテとは仲良くなれるかもしれない。
本当に名前、教えて欲しかったな………。
だが、この状況で文句を言っている暇は無く、私は合体したままの聖炎大神剣で襲いかかる邪神を次々に倒していく。
………のだが、邪神は時間を巻き戻したように起き上がり、再び私に襲いかかってくる。
その姿はゾンビと言ってもいいものなのだが、邪神達は一糸乱れぬ連携で迫ってくる。
私がまだ全力ではない、というよりは敵の能力を見極めている段階なので、そのせいかもしれないが、私が苦戦するなんて最初に戦った邪神以来だ。
私がどうするか悩んでいると、聖炎大神剣が頭に直接話しかけてきた。
『おかーさん、この子の名前はクロスっていうみたい。』
そうか、この子の名前はクロスっていうのか。
「お願いクロス、力を貸して。」
『わかった、力、貸す、でも、条件、ある。』
「条件?」
私に出来る範囲のことなら条件を飲むことに迷いは無い。
『おれ、世界、見て、まわりたい、だから、連れてけ。』
「それなら大丈夫だよ。」
邪神を倒すためにいろいろな世界を何回も移動するはずだから、その時に皆でその世界を観光すればいいと思う。
私が了承すると、黒神剣が黒く輝いた。
しばらく戦ってわかったことがある。
1.邪神の持っている概念が共有されているのか、概念を発動した邪神と違う邪神が同じ概念を使ってきた。
2.邪神の時間を戻したような回復は全ての邪神が使える上に、私の《剣神》でも認識ができていない。
3.以上のことから、敵に妨害系の概念を持った邪神が存在して、さらに概念を共有?していることが確定した。
皆の方を見てみると、結界に若干ヒビが入っているのが確認できた。
これは早く決着をつけなければならないだろう。
「ヴァーン・レイテ、それにクロス、私今から本気だすから、ついてきてね。《限界突破》!!」
私は《時空間収納》から1000本を越える聖剣を取り出すと、その全てを《剣神》で操り、邪神に向かって飛ばしていく。
聖炎大神剣を右手に、黒神剣を左手に持ち、《過程省略》で邪神の攻撃を避けながら邪神を倒していく。
聖炎大神剣からは炎の剣と光の剣がそれぞれ無数に構築され、邪神に向かって飛んでいく。
それにより、邪神の一糸乱れぬ動きは乱れ、邪神が倒されていく。
だが、概念 炎で存在を燃やしても、時を戻したように回復してくるため、一進一退の攻防になる。
《限界突破》のデメリットの時間を概念 加速で加速させることで、動きが鈍る時間を極端に短くしている上に、鈍る時間は自身の周りにマーガムから概念 絆で借りた《防御結界》を使って攻撃から身を守り、聖炎大神剣に援護してもらうことで、なんとか1000体の邪神と対等に戦えている。
だが、無限に復活なんてされていたらいずれ私が押し負けてしまう。
どうしたものか、そう思っていると、黒神剣が解決法を教えてくれた。
『あいつら、この世界から、力、吸い取ってる、だから、隔離、すればいい。』
隔離、隔離か…、空間に穴を開けてその中に突っ込む………、いや、それで別の世界に飛ばしてしまって、そのせいでその世界の力が吸い取られたら責任問題だな。
『だから、おれの、概念で、隔離、すればいい。』
そういうと黒神剣の刀身がより黒くなり、邪神の攻撃に触れるとその攻撃を吸い取ってしまった。
『この闇、先は、おれの、中、入れば、徐々に、おれの、力、なる。』
怖っ!
でも、邪神の力なんて取り込んで大丈夫なのかな?
『おれ、元々、邪神、だから、大丈夫。』
………、さらっととんでもない情報が…。
「邪神だったの?」
『今は、いろいろ、あって、神に、味方、してる。』
「そう…、私は信じてるから。」
『私達も!』
黒神剣が答えることはなかったけど、僅かに刀身が輝いているように見えた。
そのあと、私は邪神を倒しては黒神剣に片っ端から取り込ませていった。
すると邪神の数は徐々に減っていき、最初は1600以上いた邪神は、100柱までに数を減らした。
逃げ出すものがいるかと思ったけど、1柱も逃げ出すことなく黒神剣に取り込まれた。
さらにしばらく経過すると、遂に邪神の数は30柱になった。
すると、マーガムが結界を解除してクレーメさんやエクスがグループ毎に邪神と戦い始めた。
皆が戦う邪神に飛ばしている聖剣や聖炎大神剣が作りだした炎と光の剣を近くの邪神が皆に横槍を入れることが出来ないように周囲で待機させる。
どうやらグループに1人は黒神剣と同じような隔離できる概念を保有しているみたいで、私が隔離しに向かう必要は無かった。
そして最後の1柱になり、無数の聖剣と光と炎の剣が最後の邪神を取り囲む。
するとその邪神が僅かに笑みを浮かべると、私の聖剣の《過程省略》による攻撃よりも早く闇に包まれて姿を消した。