第16話 中二病絡まれる
学校に戻ってきた私達は、図書室に入り浸る生活を送っていた。
最上級の下位とはいえ、最上級の邪神を倒した私達は学校でかなりの有名人になってしまっていた。
見てくるだけで、話しかけて来るわけではないので、問題があるわけではないのだが、人だかりが必ず形成されるので外は歩きづらくなってしまった。
なので他の生徒がほとんどいない図書室か、宿舎のどちらかでしか他の生徒の視線から逃れる場所が無かった。
………いや、Sクラスにも今は誰もいないので逃れる場所はまだありそうだ。
ただ、図書室の方が漫画や小説(異世界のものも含む)、それに魔法の使い方を記した本なども置いてあり、勉強することや休憩することに事欠かない。
それにマーガムにヴァーンやレイテは、愛読書をいくつか見つけたみたいで、それらを読むために図書室によく来たがるのだ。
マーガム達が本を読んでいる間、私は1人で《過程省略》を使いSクラスに向かう。
あそこならば天使がいるはずなので、クレーメさんやエクスの世界の救済がどの程度進んだのか聞けるはずだ。
そろそろ授業とか始めて貰わないと、元の世界に戻るのが遅くなってしまう。
いくら、時間を巻き戻して学校に向かった瞬間に戻れるとはいえ、そろそろみんなに会いたいと思うのだ。
Sクラスに入ると、案の定天使が教卓に突っ伏していた。
………生きてる?
「あの………?」
「…zzZ」
………ここで寝てるのはどうなのよ。
「あの!」
「!?…あぁ、あなたですか、何の用ですか?他のグループが戻ってこないと授業は始まりませんよ?」
「いや、他のグループはどの程度、世界の救済ができているのかな?と思いまして。」
とりあえず大まかな日付だけでも知りたい。
「………テストのような物なので教えられないです。」
………まさか教えてもらえないとは思わなかった。
「ただ、もう少しで2グループとも戻って来ますよ。」
もう少しってどれくらいだろう…、私はそう思いながらも、言葉にすることはせず、マーガム達がいる図書室に戻った。
図書室に戻ると、マーガムとレイテは居たのだが、ヴァーンの姿が見当たらない。
「マーガム、ヴァーンがどこに行ったかわかる?」
「新しい技を思い付いた!と言いながら止めるまもなく、外に走っていってしまいました…。」
………え?
「母さん、早く迎えに行った方がいい。」
レイテの言うとおりだ。
前回のような事故が起こらないとも限らない。
私達はヴァーンを図書室から出てヴァーンを探すのだった。
外に出ると、他のクラスの生徒達の視線が私達に刺さる。
しかし、いくつかの視線は私達ではない方向に向いている。
人だかりがすごいことになっているので、分かりにくかったが、どうやら視線の先にヴァーンがいるようで、《剣神》で認識する限りは概念は使わずに魔法を使っているみたいだ。
私達がヴァーンがいる方向に進もうとすると、人だかりは海が割れたかのように私達が通れる道を形成した。
私達は道を通り、ヴァーンの元へとむかった。
ヴァーンの元へとたどり着くと、どうやら大技を繰り出す直前だった。
「見よ!これが私の力だ!」
そんなことを言いながら、ヴァーンは右手の甲を前に出して、左手で右腕を掴むと右手から炎が出現し、炎の中から1本の刀が現れた。
ヴァーンが刀を掴み、剣舞を披露して観客のボルテージが上がっていく。
さらにヴァーンの周りに炎によって円環が描かれていき、ヴァーンの体の一部に炎の環が付いている。
と、そろそろ止めさせないと…。
そう思い前に出ようとした時、私よりも先にヴァーンの前に立つ男がいた。
「おうおう!お前、俺様と戦え!」
いきなり何言い出すんだこいつ…。
この場にいた全員がそう思った。
「俺が勝ったらお前は俺様のものだ!」
は?
今すぐに出ていってヴァーンを連れて帰るか、こいつをぶっ飛ばそう。
ヴァーンは意思のある神剣だ。
レイテにも言えることだが、誰の物になるかはヴァーンとレイテが、それぞれ決めればいいと私は思っている。
だが、私が出るよりも早くヴァーンが言葉を紡いだ。
「うーん、………!私が貴様に負けることはない!」
ヴァーンの中二病が………。
とにかく、この一言により激怒した男がヴァーンに襲いかかったのだが、その攻撃はあまりにも直線的で、私の剣として戦うヴァーンからすれば止まって見えるほどに遅かった。
だからだろう、ヴァーンは先程出した剣を燃やして消すと、あくびをしてから男に向かっていった。
この世界にいるのは生徒も教師も神か天使のどちらかしかいない。
ならば、この男も神のはずで、それに他の神(ヴァーンは正確には神剣だけど)に向かってケンカを売るのだから相当強いはず。
そう思ったことが馬鹿馬鹿しいほど、勝負は呆気なく決着した。
ヴァーンの圧勝である。
男の攻撃を概念 炎を使うこともせずに回避し、さらに男の頭の上に立ってみたりしていた。
もはや勝負とは呼べない、ヴァーンが遊んでいる、としか言えないものだった。
「ねーねー、それだけー?」
うん、少しだけ同情するほどだ。
ヴァーンが男に向かって言葉を言い終わると、男を背中から蹴り飛ばし、図書室の壁にぶつけて気絶したことで決着した。
この勝負において、ヴァーンは概念を一切使用していない。
にも関わらず、概念を使ったのに負けたあの男の心が折れないかが、私は心配になっていた。
というよりも責任問題になるのが怖いんだけどね。
私は《過程省略》を使ってヴァーンを宿舎に移動させてから、マーガムとレイテを連れて宿舎に帰った。
宿舎に帰った私は、ヴァーンに単独行動しないように注意だけしてから、お風呂に入ったあと、4人で一緒に眠るのだった。