第10話 2人の少女の正体
私が目を覚ますと、2人の少女が私とマーガムを起こそうと揺すっていた。
そして、私を起こそうとする少女が私のことを、おかーさん、そう言っていた。
………いやいや、おかしいよね!?
そもそも、結界を張っているのに中にいる時点でおかしいんだけど?
結界には破られた形跡は見受けられないし、転移系のスキルは使われたら空間の揺らぎが発生するから、《剣神》で察知した私がすぐに起きるはずだ。
おまけに私に子供はいない。
だから、おかーさんっていうのは聞き間違えか何かだろう。
「あーっ!おかーさん起きたよ!!」
「うん、おはよう母さん。」
………聞き間違えてなかった!
「いや、うん、人違いじゃないかな?」
「おかーさんはおかーさんだから合ってるよ?」
「わからないの?悲しい…。」
2人ともが悲しそうな顔をするが、どうしてもわからない。
私は改めて2人を観察する。
2人とも身長は110cmくらいで、髪型がツーサイドアップ、服は巫女のような服だ。
おかーさんと呼んでくる子は、煌めく赤の髪の毛で、瞳は金色、活発そうな印象の女の子だ。
逆に母さんと呼んでくる子は、おとなしそうな印象で、私と同じ白銀の髪の毛を持ち、瞳は薄い蒼色だ。
私が2人を観察していると、マーガムが目を覚ました。
「ぅん? ミナさん、その子達は?」
「この子達が言うには私の子供らしいんだけど………。」
「子供ですか…、子供ですかっ!?」
うん、びっくりするよね。
1回スルーするレベルでびっくりするよね。
私もかなりびっくりしてるからね。
「でもミナさんの子供なら、父親は誰なんですか?」
「私達にはおとーさんはいないの!」
活発そうな少女がそう言うと、おとなしそうな少女が首を縦に振り、父親がいないのを肯定する。
それにしても、父親がいないのか…。
つまり、私のクローンってことになるのかな?
だとすると、思い当たることはある。
私は《時空間収納》からあるものを取り出そうとするが、それが出てくることは無かった。
「あぁ、なるほど、そういうことか。」
この子達の正体がわかった。
「すぐにわからなくてごめんね、ヴァーンにレイテ。」
その正体は私が作り出した神剣、まさか人格を持っている上に、人化まで出来るとは思わなかったけど。
私が名前を呼ぶと、2人は私に抱き着いてくる。
「おかーさん、やっと気付いてくれた!」
「母さん、嬉しい。」
「ミナさんの剣は人になれるんですね。」
「いや、私も今知ったよ。」
神剣が量産出来ないのは、もしかしたら人格が無いからなのかもね。
まぁ、この仮説を検証することは無いかな。
だれかの人格を弄ぶようなことはしたくない。
私はマーガムとヴァーンとレイテを連れて宿から出た。
すると、街はいまだにお祝いが続いていた。
これは、私達がゆっくりしていると、《時空間収納》から食糧を提供することにもなりかねないかも………。
私は早くこの世界を救済して、早くこの世界から学校に戻ることを心に誓った。
私達は《過程省略》で街近くの砂漠地帯に一瞬で移動した。
私はとりあえず砂漠地帯に魔力を込めてみる案を実行することにした。
どんどんMPが減っていくのを感じるが、砂漠地帯に変化は無い。
これは失敗かな…?
止まっている暇なんて無いから、私はもうひとつの案を実行することにした。
私は《武器創改造》で、きれいな水を出す聖剣、土に定期的に魔力を消費することで栄養を与える聖剣を作り出す。
植物を作り出す聖剣は、いざ作ってみると消費する魔力が膨大で、おまけに実の味がすごく悪かったので《時空間収納》に突っ込んだ。
私は土に栄養を与える聖剣を起動して続けて水を作り出す聖剣も起動する。
すると水が一気に溢れだし、一瞬で一帯を水浸しにしてしまった。
私は水を作り出す聖剣を《時空間収納》に収納してから、マーガムを背負い、ヴァーンとレイテを両腕でそれぞれ抱えて、上空に《過程省略》で逃げた。
しばらくすると、水は地面に吸収されたので、私達は地面に降り立った。
私達が地面に降り立つと、地面から草木が生え始めた。
そういえば地面に栄養を与える聖剣を回収するのを忘れていた。
おそらく地面に栄養を与える聖剣が何らかの作用で植物を急成長させたんだろう。
でも、私達は種を蒔いていないはずなので、どこから植物が生えたんだろう?
答えはヴァーンが教えてくれた。
「おかーさん、植物を作り出す聖剣で作った植物の実を食べた時に種がいっぱい落ちてたよ?」
………あの実、美味しくなかったけど、繁殖力は強いのね。
とりあえずこの植物を植えていって、砂漠化をどうにかしよう。
私達は砂漠地帯を手当たり次第に森林に変えていった。
私達が街に戻ると、街の人間が植物の実を美味しそうに食べている。
「うめぇ!こんなにうめぇ実、初めて食った!」
どうやら、私とこの世界の人々では、味覚が違うらしい。
長とばったり会ってしまった私達は、長に実を食べるように勧められた。
私は味がわかっているので、断るのだが、長が諦めてくれないので、仕方なく食べることにした。
恐る恐る、実を齧る。
すると、まるでリンゴのような食感で桃のような味が感じられた。
「美味しい…。」
繁殖力が高いだけの植物じゃ無かったのか…。
長と別れ、宿に戻った私達は転移させられ、そこにはベフラードがいた。