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唐突な始まり
いきなりだった。
普通、これだけ大きなイベントともなれば五秒前ではなく五分、十分前に開始の告知が為される。
お手洗いを済ませておいてください。などの注意がされる。
それがなかった。
会場の不手際ではない。
虎子だった。
虎子が準備をしている協会員を捕まえて言ったのだ。
「もう始めちゃってよ」と。
逆らえる者などいるはずがない。
命令された協会員の男はすぐさま上の者に連絡した。
そして、五秒前である。
これは虎子にとっても予想外の時間短縮だったが、ラッキーと思うくらいで特に気にしていない。
「4秒前!」
「ごめんね、いきなり始めちゃって」
バタバタと慌ただしく皿が運ばれる。
シンクに山のように皿が溜まっていく。
「三秒前!」
「無問題」
喧騒の中で弓徒は静かに答えた。
「二秒前!」
交わした言葉はそれだけだった。
「一秒前!」
どれだけの熱がそこにあったのか。
どのような想いでこの決闘に臨んだのか。
それを口にする事は無かった。
二人は同時にスポンジを掴み——
「始め!」
皿を、洗い始めた。




