過去という縛り
頬の傷について聞かれた際に、彼はこう言う。
虎にやられた、と。
そう。あれは紅虎の事なのだよ。
紅虎爪とは紅虎の、言うなれば必殺技のようなものだ。
人差し指、中指、薬指。
その三指を振るう。
それだけで、石を割り、鉄を裂く。
本来の用途はそのような破壊ではなく皿洗いに通ずるものだったのだが、力を付けすぎた彼女の指は破壊を好むようになってしまっていた。
敗北した弓徒君に浴びせられたのは、力無き敗者を蔑む心無い台詞と、その一撃だった。
普通なら、そこで皿洗い師としての道を諦めただろう。
しかし彼は立ち上がった。
そして皿洗い師を続けている。
紅虎に勝つという一心で。
あの時の敗北の恥辱を濯ぐ為に、復讐の炎を燃やして。
復讐をやめろとは私は言わない。
私にそのような言葉を吐く資格はないし、彼のこれまでの皿洗い人生を否定したくはない。
それもまた一つの道だ。
けれど、その程度の心持で修行を続けて勝てるほど、紅虎は甘い相手ではない。
復讐とはしがらみだ。過去に縛られている。
それを引き千切り、己の心の中にある壁を一つ超えなければ、彼に勝ち目はない。
私はそう思う。




