間合いの内
皿洗い師は背後の気配に敏感である。
集中するは眼前の流し台。
必然、背中は疎かになると思われがちだが、家庭にしろ料理店にしろどのキッチンでも多かれ少なかれ人の動きはある。
その動きを、眼ではなく気配で捉える。
背後で何が起こっているかを認識し、他者の妨げにならぬよう皿を洗い続ける。
そのような気遣いが出来てこその皿洗い師である。
故に、二人もまた例に漏れず背後には——いや、それだけでなく、手の届く範囲には特に敏感である。
自身の間合いの内にある全ての事象を認識していると言っても過言ではない。
だからこそ、彼らには信じられなかった。
自分達が背後を取られたという事実が。
驚愕した。
けれど、恐怖は無かった。
敵意を感じていない。
だから、なのか?
自分の一部に感じた。
反射で動けなかった。
ここからどうするべきか——思考した一瞬。
見計らったように、何者かが言った。
「それでは勝てないアルヨー」
存外、高い声。
若い女の声。
「紅虎には勝てないアルヨ」
「な——なんだとっ!?」
敵である紅虎の名前を出されて黙っていられる男ではない。
弓徒は声を荒げた。と、同時に、
「扮!」
「が——!?」
ぶっ飛ばされた。
巨体が、宙を舞った。




