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実力
スポンジとその持ち方。
たったこれだけでも、喜一が常人を遥かに越える実力を有している事は理解出来る。
しかしそれは、見る者が見れば、だ。
「さっすがは喜一君やなー。いつ見ても素晴らしい手並みやわー」
「えぇー……そうですかぁ?」
いつものように感嘆の声を漏らした水戸の隣で、訝し気な声を上げた者がいた。
肩辺りまで伸ばされているボサボサな黒髪と、気怠気な瞳が印象に残る女性だ。
彼女の名は、戸賀舞。
水戸の後輩であり、友人である。
「水戸先輩はよくこの人家に呼んでますけど、実際皿洗いって誰がやっても同じじゃないんですかぁ?」
舞は、馬鹿にしたような視線を喜一の背に向けた。
ちょっと上手に皿が洗えるだけでしょ?
そういう厭味の籠った視線だ。
いつもならここで水戸は「それもそうやな!」などと言って、一緒に笑ってくれる。
舞はそう思ったが……水戸の反応は違った。
「あんた……ほんとにそう思ってるん?」
真剣な表情で、水戸はそう言った。




