水面を歩く者
「何だ?」
弓徒が皿を置いて立ち上がった。
喜一も同じく皿を置き、腰を上げた。
見据える先には黒い影。
それが、徐々に鮮明になっていく。
「人……か?」
疑問系なのは、仮面を被っていたから。
人でありながら獣の凶暴性を表に出したような。
どこか未開の部族が祭礼の儀式に用いる物のような。
人と獣とが一体化し、大きな牙が無数に生えた魔性の仮面を被る者。
身に纏っている白いチャイナドレスとのミスマッチさが更に不気味を呼んでいる。
しかし、真に驚くべきはそこではない。
「おい、喜一。俺の見間違いだと思うけどよ……あいつ、水の上を……」
「歩いている」
「お前がそう言うなら、見間違いじゃあねぇな」
近づいてくるその者は、水の上を歩いてる。
理論上は右足が沈む前に左足を前に出せば、身体が水中に没する事無く、水面を歩く事は可能であるとされる……が、一文での説明とは裏腹に、言うは易し行うは難き所業。
正体不明。だが手練である事は間違いない。
そんな何者かを、二人はただただ呆然と眺めていた——刹那、
ふっ、とそれが視界から消えた。
慌ててどこに行ったのか追おうとしたが、それは探すまでもなく、
「なっ!?」
「——っ!?」
二人の背後に、いた。




