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痛む傷
「あぁ……今日も疲れたぜ。でも飯は食えたからよしとするか」
華弓斗は一人、夜の街を歩いていた。
パーティーでの皿洗いの仕事だった。
拘束時間は長いが、金払いはよく、飯も食える。条件としてはいいものだった。
満足感はかなり大きい。
このまま、どこかで一杯やっていくか?
そう思わないでもない。
だから、脚は自然と飲み屋街に向かっていた。
そんな時、路地からすっと。
女が一人、ふらりと姿を現した。
ボロボロの格好をした女だった。女は携帯電話に向かって何か話しているようだったが、会話が面倒になったのか雑に切ってそれを尻ポケットにねじ込んだ。
「む——?」
遠目でよく見えなかったが、今の女は……。
いや、あの女がこんなところにいるはずが……。
無意識に、頬の傷に触れていた。
蘇る過去。
痛みの記憶。
血の匂い。
血の、匂い……?
「……?」
これは過去ではない。現実の匂いだと気付き、弓斗は走り、路地裏へと入った。
そこで、彼は見た。
「なん——だよ、これ……」
一人の男が、血溜まりの中に倒れているのを。




