紅の虎
がぎぎぎり、ごぎぎぎり。
硬質なものが削れる音がした。
靴底と地面が擦れた音とは全く別物の音。
発生源はどこか?
探すまでもなく、それは羅人の眼に映り込んでいた。
女の手だ。
左右に伸ばされた両手が、両サイドのビルと触れ合っている。いや、単に触れているだけではない。
削れていた。
粘土を指で強く押した時の、凹みのような。
そういう線が、コンクリートに刻まれている。刻まれていく。
「会長の命令かい?」
「そうと言えばそうかな」
「違うと言えば違うの?」
「私に一任されてるね」
「だったら、見逃してよ」
「何か弁明があるのなら、私を倒して会長のとこに行ったらいいよ」
「……そうかい」
ため息を、一つ。
「虎との戦いは避けたいのが本音だが……やるしかないみたいだな……」
羅人は浅く腰を落とした。
逃げる。という選択を取るには、もう間合いが近すぎる。
背を向けて無防備をさらすのは危険だ。
故に、前進して活路を見出す。
「……お前は手加減できる相手じゃない。全力でいかせて貰うぞ、紅虎」
「うん。本気で来てよ。私一回やってみたかったんだよね、羅人さんと」
「嬉しい台詞だ——ッ!」
そして羅人は、地を蹴った。




