気付き
「後は私がやっておくから、今日はもうあがりなさい」
「はい」
喜一は片付ける手を止めて頷いた。
手を洗い、拭いて、エプロンを取った。
そこに、唐馬は声を掛けた。
「……どう思った? 今日の皿洗い師を」
「かなりの使い手でした。それに……」
「何か気になるところが?」
「どことなく、唐馬さんに似ていると思いました」
「私に?」
「お客様を気に掛けていた様子が、特に」
「……そうか。しかし、それは君も同じだろう?」
「俺は、あの人を見てそうしただけです。一人だったら、いつも通り皿を洗うだけでした。羅人さんの皿を洗う姿を見て、お客様への気持ちの込め方に気付きました」
淡々とした口調だった。だが、そこには確かに尊敬の念があった。
「そうか。それは良い事を学んだね、喜一」
「はい」
真っ直ぐな返事だった。
皿を洗う事への飽くなき探究心で磨き上げられた、曇りのない黒い瞳が、唐馬に向けられていた。
「お先に失礼します」
だから、
「喜一」
「何ですか?」
「……いや、何でもない。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
唐馬は言えなかった。
これから始まるであろう、大きな戦いについて……。




