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指
少し、技術についての話をしよう。
スポンジを持つ。
普段常人が何の意識もせず行っているこの動作。
しかし皿洗い師は、そこすらも意識している。
「……」
左手の親指と人差し指、そして中指でスポンジを軽く固定し、対象の物体に押し付ける。
そして、拭く。
残りの薬指と小指はそれを後から追い掛ける。
「……」
スポンジで拭いた後を追って、なぞり、そこに油汚れが付いていないかどうかを確認しているのである。
汚れが無いのを確認した後は、水で流す。
この時、物体を掴んでいる右手はその物体のただ一点のみを掴んでいるのではない。
巧みにポジションを変え、それとなく対象である物体の全体に触れている。
僅かな隙を生じさせぬ幾重ものチェックである。
ただ闇雲に拭き、洗い、流すだけではない。
確固たる理論を構築し、それに従って、拭き、洗い、流す。
そういう事が出来るから、皿洗い師は皿洗い師足り得るのである。




