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背中で語る
「俺の逆をやったわけだ」
「……」
「俺が音を消したのに対して、君は音を出した」
「……」
「それも、複雑な音だ。様々な洗い方をしていた……けれど、決して雑では無かった。言うなれば、そう。心地いいBGMみたいな……実家で居間にいる時に、台所の方から聞こえてくるような音……」
「……」
「俺の眼にも浮かんだよ。お袋の後ろ姿が」
「……」
「君は皿を洗う際に、そういう音を出していた」
「……」
「だけど、それは俺に対抗してそういう風にしたわけじゃない。そうだね?」
首だけを動かして、頷いて、喜一は肯定した。
「さっきの君の言葉通りというわけか。いやはや。凄いね。本当に君は継いだわけだ。俺の作り出した流れを」
「……」
「大したものだよ。本当に」
「……」
喜一は無言で皿を洗っている。
それが見知らぬ男である羅人に対する当てつけではない事は、羅人本人にもよくわかっている。
言葉を発する余裕が無いのだ。
それだけ真剣に、皿を洗っているのだ。
「この雰囲気を維持する為、か」
羅人は顎髭をさすり、満足そうに頷いた。
「素晴らしいね」




