思い返すと
「一杯どう?」
「うん。ありがと」
客の会話は、聞こえる。
「ウイスキー。なにかおすすめを。ロックで」
「畏まりました」
客とマスターとの会話もまた、よく聞こえる。
音が戻っている。
……いや、そもそも音が無い状態が異常だったのだから、今こそがいつも通りの状況。と言うべきだろう。
しかし……
「美味しいね」
「うん」
何か……
「やはり良いね。この酒は」
「ありがとうございます」
いつもとは、違うような……
「先輩、それ一口飲ませてくれませんか?」
「んー? いいけど……これなぁ、ウイスキー飲んだことないと、ちょっと飲めんと思うけど……」
「物は試し、です」
「そんなら、ほい。どーぞ」
「ありがとうございます……うへぇぇぇ……」
「ほらな?」
「わ、私には……まだ早かったみたいです……あの、マスター、お水貰えますか?」
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
美味そうに水を飲む舞。
それを見て、微笑む斗真。
以前は自分もこうだったのかな。
過去が思い返される。まあ、自分は舞ほど静かなリアクションでは無かった覚えがあるが……。
「ふふん」
斗真はグラスを回した。
きん……と、氷が鳴いた。
かちゃり、と、皿を重ねる音がした。




