懐かしさ
メジャーカップでぴったり三十ミリ。
計り、美しい球形の氷を入れたグラスの中に、優しく注ぎ込む。
キラキラと、照明の淡い光を受けて輝く氷。
「どうぞ」
「ども〜」
コースターに置かれたそれを、斗真は少しだけ眺めてから、ちびりと一口。
「はぁ……」
まずスモーキーな香り。
その後に続く、甘く、果実に近い風味。
端的に言って、美味い。
飲み始めたばかりの頃は「これ野焼きの味やん」と言っていたものだが、中々どうして、飲み続ければ癖になるものである。
「へぇ〜。先輩ってウイスキーとか飲むんですね。なんか意外です」
「なんかとはなんだねなんかとは。……まー、実家で親父の晩酌に付き合っとたらねぇ、いつの間にか……ねぇ……」
これは家の味だ。と、斗真は思う。
家でよく、父親が飲んでいた酒。それと同じ銘柄、同じ年数のもの。
現行品と過去の物では味が異なる場合もあるが、この味はいつ飲んでも変わらないと思う。
懐かしい……。
ふと、そのような郷愁が胸に降りた。
何故だろうか?
理由はわからない。
けれど……
「ん? ……んー?」
また、バーの雰囲気が変質したのを、斗真は感じ取っていた。




