音
突然だった。
「それで俺は言ってやったわけよ。ガツンとね」
「えーっ! すごーいっ!」
本当にいきなり、隣の若いカップルの会話が耳に入った。
バーで出すのが憚られるような、大き過ぎるトーンの声。
本人もそれに気付いたのか、今になって慌てて辺りを見回して申し訳なさそうに目を伏せた。
「——っ!!!」
斗真は驚いた。
あまりにも不意に声が聞こえたからだ。
きっと隣のカップルも、ここには自分達だけしかいないと思っていたに違いない。
そういう感じだった。
それが、声の様子からわかった。
問題なのは、何故? である。
「俺の腕前はこんなもんかな。さあ、次は君の番だよ。喜一くん」
羅人は流し台を去り、喜一についさっきまで自分がいたそこに立つように促している。
「……」
喜一は無言で袖をまくった。
皿洗いを引き継ぐ態勢に入った。
そこに、
「なぁ、喜一」
斗真が、声を掛けた。
「何だ?」
「皿洗おうとしてるとこすまんけど……一個聞いていい? あの人、一体何したん?」
「何故、俺に聞く?」
「あの人が、喜一から聞けって言っとったから」
「……そうか」
頷いて、喜一は言った。
「音だ」




