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ギブ・アンド・テイク
「これで終わりか」
流し台とテーブルに眼をやり皿が無い事を確認すると、そこでようやく喜一はスポンジを置いた。
スポンジを置く前に、もう一度洗剤を染み込ませて除菌をするのも忘れない。
「おー!さっすがは喜一君やね!いつ見ても惚れ惚れする腕前やわー」
眼を輝かせ、塔に目を向ける斗真。その瞳には建前ではなく本音の感動があった。
だが、喜一はどこまでもビジネスライクだった。
「世辞は良い。仕事は終わった。報酬を貰う」
「報酬はお昼ご飯やろ?」
「そうだ」
皿洗い師は皿を洗って対価を得る。
大抵は金だが、喜一の場合は飯である。
生きる為に必要な糧を、皿を洗う事で獲得するのだ。
究極のギブ・アンド・テイク。
それが、皿洗いなのだ。
「おっけーい!ほんじゃあ出かけますか!着替えるからちょっち待ってねん!」
「心得た」
喜一は斗真に背を向けたまま、頷いた。
男は黙って背中で語る。
これが皿洗い師。
これが千歳喜一。
彼は今日も、生きる為に皿を洗う。




