駆け付け一杯
程なくして差し出された二杯のカクテル。
すり潰したミントに小粒のアイスとこれもまた小粒の季節果物。そこにラムを注いだもの。
モヒートである。
斗真は、ここに来たら絶対に一杯目はこれを飲むと決めている。
普段なら喜一からの「……」という「またそれか」とでも言いたそうな呆れた視線を浴びせられるのだが、今日の皿洗い師は知らないおじさんなので、気にする事なく駆けつけ一杯。
「かぁ〜〜〜!!! 爽やかな中にパンチがあって、でもやっぱりスッキリしてて、食った飯を流してくれるというか、新しい余韻に浸れるっていうか、何にしてもきくわ〜これ〜」
「わっ! 美味しい! で、ですけど先輩! そんな大きな声を出すのは、ちょっとやめた方が……」
「あ〜かまへんかまへん」
上がったテンションに身を任せた、とても年頃の女子とは思えないおっさんじみたリアクション。
しかしここから周囲に「あんまりにも酒が美味すぎてテンション上がっちゃいました。すんません!」などと言って客の同意を得るとこまでが一連の流れである。
故に、隣にそう言おうとして、
「あれ?」
そこで、斗真は気付いた。
周囲の視線が、騒ぎ倒した自分に注がれていないという事に。




