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卯
「年を経たウイスキーは、その年を一分に換算して飲め。って、俺の行きつけのバーのマスターがいつも言うんですよ。十二年だったら十二分。三十年だったら三十分。これは十七年だから、十七分。俺がこれを飲み始めて七分経ってるから、残りは十分。だから十分後というわけです」
男は語った。
「この十分をどう使うのか。それは君の自由だよ、喜一くん」
語りかける男の先にいるのは、千歳喜一である。
奥から出てきた彼は、カウンターを挟んで男と対峙した。
「何か準備が必要なら、今のうちにしておくといい」
「必要ない」
「常在戦場の心がけ。そういう事かな?」
「……そんな事は考えたことも無い」
「そうなんだ。じゃあ、何を考えてるんだい?」
「そこに皿があれば、洗う。ただそれだけを考えている」
「……なるほど。強いな。君は」
男はニヤリと笑った。
そして、言った。
「名乗りが遅れて失礼したね。俺の名前は卯益羅人。協会に所属する皿洗い師。十二支の一人。卯を任されている者だ」




