4/184
重ね、重ね
「したらな、あいつな〜」
「そうか」
口よりもまずは手を動かせ。
これは皿洗いの基本である。
それ故に、彼の口数は多くはない。
ひたすらに。
ただひたすらに、皿を洗い続ける。
「……」
皿を見れば昨夜の様子は想像出来る。
基本的には呑んでいただけなのだろう。
皿の汚れ自体は大したものではない。
喜一は手際良く皿を洗い、ラックに乗せ続けた。
だが、これもただ置けば良いと言うものではない。
どれをどこに置けば全ての皿がラックに納まるのか?
それを常に考えながら置かなければならない。
どうしようもない場合は皿を拭くが、それは最後の手段だ。
皿洗いの途中、皿を置く以外でスポンジから手を離すのは皿洗い師にとっては敗北を意味する。
だからこそ、彼は皿を手から離すその寸前まで場所を見極め、常に最良の場に置き続けている。
僅かな狂いも許さぬ正確さで、喜一は皿を重ねていく。
数分後にラックに建立されたのは、力強さを感じさせる芸術的な皿の城だった。




