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指、技
指弾。と呼ばれる技がある。
指の先で、何かを弾き、打ち出す。という、ただそれだけの、単純な技である。
単純であるが、しかし、使い手の力量を如実に表す技でもある。
打ち出すものが何であれ、指の力が足りなければ、弾となるものは飛ばず、威力も激減する。
力だけでなく、コントロールも必要である。
飛ばすのは、指で打ち出せる程度の大きさのもの。
それを目標物に確実にヒットさせるには、かなりの精密さが要求される。
パワーと、コントロール。
皿洗い師である陽には、その二つがあった。
常人の目には止まらぬ速度で、彼女は右の握った拳から、親指を弾き、あるものを飛ばした。
それが、喜一の背後の強化ガラスに亀裂を入れたのである。
驚くべき技量であった。
しかし真に驚くべきは、陽の飛ばしたものの方だ。
彼女が放ったのは、拭い損ない、指先に残っていた、僅かな水滴。
空気抵抗が無ければ、雨粒は人体を容易に破壊しうる威力を得るというが、まさしく、それに匹敵する事を、彼女は指先のみでやってのけたのである。
恐るべき技量であった。
が、しかし、恐るべきは、喜一もまた同じであった。




