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壁を越える。
「全く……油断も隙もない……」
捉えたコップを、その場で素早く洗う。
水もスポンジも一瞬だけ実体化させての、超高速——それこそ常人の目から見れば瞬く間よりも速い一瞬——での皿洗い。
「ほうっておけばいいのにぃ」
ありえない事象を目にしても、斗真のリアクションは軽い。
何故なら彼女は皿洗い師という人種の超常的な実力を知っているから——というのもあるが、もはやこれがこの世界での常識となってしまったからである。
在膳と喜一との決闘は続いており、依然として全世界で皿が勝手に洗われているのだ。
「何もせんでも皿は勝手に洗われるのに……皿洗い師って、そんなに皿が洗いたいわけなん?」
「狂おしい程に皿が洗いたいのです」
「難儀なもんやねぇ」
「はい。……ですが、そのお陰でこの領域に入れたのです」
この領域——それは無論、意志の力で世界を変える領域である。
在膳と喜一の決闘は、多くの皿洗い師のレベルを大幅に向上させた。
彼らは人類に一つの壁を越えさせたのである。




