貴方のお陰
人は生きる為に文明を発展させた。
いつからか、あらゆる動物から生命を脅かされぬようになり、衣食住に困らぬようになり、生きる為という目的は、より良く生きる為というものに変化した。
それは素晴らしい事である。
日々の中で生命の心配をせず、自らの望む事をする。欲するものを得ようとする。
そのような行為は恐らく地球上に於いて人間だけに与えられたものであろう。
もっと良く……もっと良く……。
進歩し続ける人類。
その果てにあるのは何か?
在膳九龍はそこに無があると認識していた。
皿洗いの極みに達した時、確かに彼は無を見たのだ。
だが、今はどうだ?
どこまで見ても無は無かった。
かつて有った無が消えていた。
無はどこに行ったのか?
この問いに対する答えは、どこにも行っていないであり、そんなものは無かった。となるのだろうか。
千歳喜一との皿洗い……在膳が初めて経験した、同レベルの使い手との決闘……。
それが、極みに至っていた在膳のレベルを更に引き上げた……。
故に、当時は見えなかった先が見えた……。
在膳はそこまで思考し、皿洗いの手を止めぬまま、問うた。
「貴様は何故、それ程の力を持っている?」
喜一は答えた。
「貴方のお陰だ」




