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お焦げ
お焦げ。
そう言えば聞こえが良いが、焦げは焦げ。
食品類が炭化した際に発生するこの汚れは、一般的に見れば、厄介な物である。
「……」
「こ、こんなに焦がしてしまって……ご、ごめんなさいっ!」
戸賀舞は、深い鍋の底一面に付着した焦げ目を凝視している喜一に頭を下げた。
「……」
が、喜一はその謝罪になど眼もくれずに、鍋の底を見詰めている。
「き、喜一さん……?」
舞は喜一が失望しているのかと思った。
深淵を覗く者は、深淵に覗かれている。とは、有名な言葉だが、まさしくその通りに、鍋の底の焦げ目を見て、このような状態になるまで鍋を放っておいた舞の女子力の低さに失望し、言葉を失っている……と思った。
「あ、あの……本当に——」
ごめんなさい。
そう言って、舞が頭を下げようとした、
刹那、
「問題無い」
喜一は、徐に口を開いた。
その声には、舞を気遣うような響きはなかった。
そして、安心させる為でも、虚勢を張っている訳でもなかった。
真実、彼にとってこの程度の汚れは、問題では無いのである。
それを証明する為、喜一はゆるりと袖を捲った。




