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どこかの村の祈り
幸多き村で暮らす兄妹がいた。
どこかの国で起こっている飢饉などを知らぬ者達。
兄は野に出て獣を捕り、捌き、焼いて食った。
そこに皿はある。
骨の受け皿として妹が用意した皿である。
獣から滴る油で汚れたそれは、しかし瞬く間に元の白き輝きを取り戻した。
その光景を見終えた後に、兄弟は白くなった皿に向かって手を合わせた。
そういう作法を誰かに教わったわけではない。
自然と、そうしていた。
二人はそれに対して不思議とは思わなかった。
ただそうするべきであると思ったからそうしただけであった。
そうしながら、二人は思った。
「感謝します」
「常に皿を美しく磨いて頂いて、感謝します」
と。
二人は神という概念を知らない。そのような文化など、この村には発生していなかった。
しかし、これが自然の現象ではなく何者かの手によって起こっているという事は認識していた。
その何者かとは何なのか……。
それを考えるのはこの兄弟ではなく霊媒師などのコミュニティで上位に属する者である。
故に、二人はただ祈りを捧げた。
皿を洗ってくれる、誰かに。




