約束の明日
「去れ。敗者に用は無い」
「……」
敗北感……そのような負けて悔しいという気持ちすら沸いてこない。
無だった。
手の施しようがない、とでも表現すればいいのか。
勝負にすらなっていなかった。
それでも、在膳がこの決闘を受けたという事は、そこに何かしらの想いがあるからであり、その何かこそが突破口になるのではないか——という考えすら浮かんでこない。
唐馬の視界が暗闇に包まれた。
そして次の瞬間には、彼は自身が経営するbar「空」に立っていた。
店内に染み込んでいる酒と煙草の匂い……。
今までの出来事は白昼夢だったのではないかとすら錯覚してしまう程に、非現実的な決闘だった……だが、あれは間違いなく現実であった。
自然と、ため息が漏れた。
負けておいて何を言うかと思われるかもしれないが、肩の荷が下りるのを彼は感じた。
もはや事態は自分の手を離れた。
託すしか無い。
「喜一君……」
呟き、何気なくカウンターの内側に置いてある時計に目をやった。
デジタル表示のそれに刻まれた日付は、決闘から一日が経過していた事を唐馬に告げていた。
もう、約束の明日になっていた。




