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加速
「貴様にも見えたはずだ。全ての人類に訪れる未来を」
「……」
同じ皿洗い師である唐馬にも見えていた。
それ故の沈黙であった。
「人類は無を望んでいる。果てしない道を歩む事を拒否し、道の果てを求めている」
「だから、君がそれを実現すると言うのか?」
「然り」
自らを人々の望みを実現する存在であると自負する在膳。
故に、彼の強さには果てが無い。
もはや刹那で九枚どころではない。
超越的な実力を持つ唐馬でさえ目視出来ぬ速度で皿が洗われていく。
——だが、それでも唐馬の皿洗いは続いている。
淡々と、しかし、着実に。
「まだ皿を洗えるとはな。大した精神力だ」
称賛ではない。けれど、解せない。
ここまでの実力差を見せられて、皿洗いをやめない理由とは何なのか?
唐馬歩の根底には何があるのか?
「時間稼ぎでもしているのか?」
「まさか」
在膳の問いに、唐馬はあっさりとした口調で応えた。
「皿があるから洗っている。それだけの事だよ」
「……ふん」
それは確固たる支えとして機能する真理である。
ならば——
「全ての皿を、貴様より速く洗おう」
無が、加速し始めた。




