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かつて/現在
唐馬歩という老人は、現在はbar・空の店長を務めている。
そして、喜一の皿洗いの師に——本人に聞けば初歩的な部分を教えただけと謙遜するが——あたる存在でもある。
では、過去に於いて彼は何をしていたのか?
生きた年月を感じさせる白髪——その髪が黒い頃、彼はどこにいたのか?
この問いに完璧に答えられる者は、在膳九龍を於いて他にはいない。
何故なら、在膳を育てたのが唐馬であり、在膳と共に世界皿洗い協会を設立したのが、唐馬だからである。
二人は長い時を共に過ごした——が、友かと問われれば、互いに「そうではない」と答えるだろう。
二人はただ同じ道を歩いていただけ……。
その道の先に唐馬がおり、後に在膳がいたというだけ……。
かつてはそうだった。
現在は、どちらが道の先にいるのか……。
一部の誤差もなく、まるで鏡写しのように完璧に配置されたシンク。
そこに立ち、向かい合う二人は、対等であるのか、否か。
その答えを得る為に、二人は皿を洗う——のではない。
そこに皿があるから、二人は洗うのだ。
その後に、結果が残るだけなのだ。




