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現出
「無限白皿行・幻想を始めたようだ」
男が、皿一つ無いシンクの前で呟いた。
「本当に明日、この私と闘うつもりでいるとはな」
言葉の響きの中には、呆れも、蛮勇を嘲笑している様子も無い。
そこにはどのような感情も込められていない。
路傍にある石を見て何かを想う者がいないように、男は何も想っていない。
一方で、その男と対峙している男が言った。
「本当に明日で良かったのか?」
この男もまた、無に等しい空気を纏い、同じく皿一つ無いシンクの前に立っている。
問いは事実を確認する為に口にしただけ——。
それ以上でもそれ以下でも無い。
これに、相手も問いを発した。
「何故そんな事を聞く?」
「明日は来ない——そう考えはしなかったのかね?」
問いへの問いへの問い。
それを発した瞬間、男——唐馬歩の纏う無が消失した。
無が無くなるとはおかしな表現ではある。
そこに、強烈な気配が現出したと言うべきか。
「笑止」
これを受けても、対する男——在膳九龍は、無であった。




