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互いの存在
「千歳喜一か」
「在膳九龍か」
互いに、互いの名を呼んだ。
その時、深く繋がった思考領域が、互いに互いのイメージを見せていた。
喜一が在膳九龍を無であると感じたように。
在膳九龍もまた喜一の存在を感じていた。
「貴様も無だ。否、無に近いと言うべきか」
「……」
「我々はどうやら同じ境地に達する宿命を背負った者同士らしい」
「……」
重い言葉であった。
そもそもこの会話は思考領域そのものに干渉して行われているのだ。
全ての言葉が脳の——心の奥底に深く突き刺さるのは道理である。
仮に意志力の弱い者——確固たる自我を持たぬ者——であれば、在膳九龍との会話により無に還元されてしまっていただろう。
絶対的強者から無と告げられて、自身の存在を保っていられる程、人間は強い生き物ではない。
だが、皿洗い師は常なる人とは異なる存在であり——喜一はその中でも抜きんでた実力を持つ者である。
故に、喜一は思った。
「違う」
と。
「俺はお前とは違う。今、それを確信した」
「ほう。その心は?」
在膳九龍が、問うた。




