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everything possible
水面を歩く事は理論の上では難しくはない。
右足が沈む前に左足を出す。
左足が沈む前に右足を出す。
これを交互に繰り返せば水中に没する事はない。
ジャングルで鍛えた者や、忍者、中国武術の達人など、一見すると不可能に見える絶技を可能とする者は存在する。
……では、水面に立つのはどうだろうか?
例えば、右足が沈む前に左足で上に飛ぶ。
例えば、着水した左足が沈む前に右足で水面を蹴る。
このような動作を素早く、そして小さく繰り返せば、あたかも水面に立っているかのように見せる事は可能だろう。
——しかし、あくまでそれは他者にとってそう見えるだけだ。
本人は立っているとは思っていまい。
飛んでいると思っているはずである。
だが——喜一と蛇は、立っている。
前述した方法ではなく、全く動かず、立っている。
「これが意志の力ネ」
蛇が言った。
喜一は無言であった。
けれど肯定しているのは確かである。
何故なら、彼もまたその力によって水面に立っているからである。
「人間は何でも出来るネ。何でも……」
含みを持たせて、蛇が囁いた。




