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クマバチの話
「クマバチという蜂を知っているアルか?」
女が問いかけた。
「ああ」
男は頷いた。
「その昔、クマバチはあの体で飛べるはずはない。と言われていたアルね」
「……」
「クマバチは、飛べると思っているから飛べるのだ。と言われていたアル」
「……」
「but……それから色々と研究が進んで、空気の粘性とかあれこれわかって今では飛べる理由なんかもわかってるわけアルけど、昔は先に言った事が信じられていたわけアル」
「……」
「何が言いたい? って顔アルね。でもこれそのままの意味ネ」
「……?」
「クマバチは飛べると思っているから飛べる。それ真実ネ」
「……」
「事実、ミーもユーもこうして水の上に立っているネ」
言葉通り、女は透き通った湖の、水面の上で片足立をしている。
対する男——皿洗い師・千歳喜一もまた、水面の上に直立している。
まるでそこにだけ足場があるかのように、喜一と、雷乃蛇〈プロンテア・シャー〉と名乗った女は、立てないはずの場所に、立っている。




