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皿洗い師・喜一 everyday dish washing  作者: O.S
第四章 The end of the world end
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消失

 言うなればそれは——無の感覚であった。

 エレベーターが降下する瞬間に感じる無重力感。

 常人の感覚を用いれば、それに近いものであった。

 しっかりとした足場があるにも関わらず、ふとした刹那の間だけ、足元の現実感が失われる感触。

 

 消失。

 

 それはそういうものであった。

 しかし、おかしな話である。

 地に坐しているというのに、それが消えたように感じるというのは。

 

 寒気は奔らなかった。

 恐怖する間もなかった。


 (今のは……)


 言葉に出さず、ただ思った。

 そして記憶の糸を辿った。

 彼はこの感覚を以前、感じ取った事があった。

 無論、エレベーターなどではなく、別の場所で。


 皿洗いの場で。


 記憶が蘇る。


 そう。

 これは、世界皿洗い協会のトップに君臨する男——在膳九龍と、シンクを挟んで対峙した時に感じたものと同質の——。

 

 自身とは異なる存在。

 それが齎した空気。

 圧倒的という言葉では生温い。

 何もかもが失われる、畏怖すら超越した感情——。

 

 それを闇と言うべきか、光と言うべきか。

 どちらも知らぬ犬飼には例える事が出来なかった。

 

 ただ、彼は悟った。


 終わりが始まる——と。

  

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