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砂漠の戌
砂の嵐が吹く国に、その男はいた。
細かい砂の上に胡座を掻き、手には皿とスポンジ、傍には僅かな水の入った器。
器に入っている水は、雨水を溜めたものである。
雨の少ないこの国で、皿を洗うのに水を使うというのは暴挙に等しいが、男のその行動に苦言を呈する者はいない。
男の服は、砂で汚れている。
目に掛かる程に長い髪もまた、汚れている。
しかし、皿を洗っている。
男の身なりに苦言を呈する者もまた、そこにはいない。
そこには男一人しかいない。
ただ一人で、皿を洗っている。
スポンジにほんの少量の水を吸わせ、皿に滑らせる。
皿に輝きが戻る。
その時、風が吹き、砂が皿に付着した——かと思われたが、皿は美しい白さを保ったままである。
幾度風が吹いても、皿に変わりはない。
むしろ男が手を動かす度に、皿は輝きを増していく。
一方で、男は砂に塗れてゆく。
不可思議な光景であった。
常人からすれば、何らかの奇跡が起こっているとすら思える。
だが、この男——十二支が一人、戌を司る男——犬飼ブラウンからすれば、この程度は常なる皿洗いであった。




