決着
突然だった。
前触れなどなかった。
弓徒がスポンジから手を離した。
そして、言った。
「俺の負けだ」
彼は力尽きていた。
「もう体力も気力もねぇ」
膝を付いた。
とうの昔に限界を超えていた。
しかし、何も言わずに倒れる事はよしとしなかった。
彼にもプライドがある。
皿洗い師としての。
リベンジを誓った相手でも、何クソとがむしゃらに突っかからず、その力量を称えて終わる。
「……」
視界が暗くなる。
よくやった……とは思わない。
負けたのだ。
敗北感……けれどそれはかつて味わったものとは違う。
今は、力量差がわかる。
かつては一方的に屠られた。
けれど今は、背が見えている。
師匠から教わった皿洗いが、新たなる道を示してくれた。
「今回は、俺の負けだ」
言葉を強調する。
「次は、俺が勝つ」
この道を進み、強くなる。
復讐ではなく、一人の皿洗い師として、高みを目指す。
その決意に応えるかのように、
「ん」
「……?」
声の方。上げた視線の先に、手があった。
「いい勝負だったよ。またやろーよ」
尖った爪。
それはもう恐れるものではない。
「ま、次もあたしが勝つだろーけど」
「抜かせ」
弓徒はその手を強く握り返し、そして、意識を失った。




