虎子の内心
もうどれだけ皿を洗っただろうか。
繁盛する飲食店のピーク時を遥かに超える量の皿を洗った。
一般的な家庭で一日に出る皿の100倍以上は洗った。
それを感覚で理解して、紅虎子はようやく違和感を覚えた。
まだ敗北を認めた宣言がなされていない。
不思議だった。
いつもなら、これだけ洗えば相手が敗北を宣言している。
いや、いつもならもっとずっと前に負けましたの声が聞こえる。
それがない。
ちらりと華弓徒に視線を向けた。
フラフラと変なステップを踏みながら危なっかしく皿を洗っている。
限界に見える。
もう意識がないのではないか?
それで敗北の宣言が出来ないのではないか?
ふと、そう思った。
しかし、弓徒の手はしっかりと皿を洗っている。
ともすれば、自分よりも丁寧に。
「——」
今、何を考えた?
ありえない。
相手が自分より勝っていると感じるなんて。
どこの馬の骨とも知らない皿洗い師が、自分に匹敵する実力を持っているはずがない。
いや——知らない皿洗い師ではないのか?
何か因縁があるような言い方をしていた。
どこかで会った?
全然思い出せない。
だけど、この相手は——強い? のかもしれない。




