我はただ
誰かの声援が聞こえたような気がした。
誰のものかはわからない。
そこまで気が回らない。
必死だ。
一週間前。
山で謎の女——話しをして女だとわかった——から教え込まれたこの歩法。
女はこれだけしか教えてくれなかった。
名前も、何者なのかも、何故このような事を教えてくれるのかも、一言も喋らなかった。
女は言った「ミーの事は師匠とでも呼ぶアルね」
それで「師匠」とだけ呼んだ。
後はひたすら修行。
「ユーのパワーは大したものアルヨ。後はテクニックね」
「テクニック?」
「合気ね」
周囲の気と己の気とを合わせ、歩みと共に周囲に再び放つ。
その際に放つ気には、何も込めない。
殺意や敵意など、何も。
しかし無ではない。
自らの存在感を放つとでも言えば良いのか。
世界を広げる行為だとでも言えばいいのか。
師匠は「中庸アル」と言った。
あらゆるものに縛られない純粋な気。
それのみを放つ。
「それがポッシブルなら、ユーの皿洗いはワンランクアップするアル。プラスアルファアルね。ちなみにプラスアルファは和製英語アル」
一段階上の皿洗い。
しかし敵は強い。
……いや、敵と思うのは良くない。
敵意。それは不純物だ。
考えるな。
我はただ、皿を洗うのみ。




