分水領
単純にして明快。
皿を洗った経験のある者であれば誰もが何度もやったであろう素手による頑固な汚れの除去。
皿の縁や底に付着したそれを、爪でがりがりとやるあれ。
それの強化版である。
単に強化版と言ってしまうと大した事では無いように勘違いされるかもしれないので、比較しておこう。
一般人のがりがりを流れ出る水道水に例えるとしよう。
紅虎子のがりがりは、ナイアガラの滝である。
しかも、とてつもなく繊細である。汚れを落としても、皿や鍋には傷一つ付けない。コントールされている大瀑布。
比べることすらおこがましいレベルの差。
それが紅虎爪である。
これにより、弓徒と虎子の皿洗いには明確な差が発生しつつあった。
仕上げは弓徒が上。だが、速度では虎子が勝る。
この決闘は、洗う速度が遅い方が負け。というルールではない。
心が折れたら負けなのだ。
故に、ここが分水領であった。
洗う速度で負けた。だから負けだ……。そう思うのか、でもまだ仕上げでは負けてない。と思えるか。
状況を察した観客が固唾をのむ中、挑戦者である弓徒は——皿を、洗い続けている。
奇妙な足運びをしながら。




