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大二病棟へようこそ!  作者: 兼坂 真白
つまらない小説の主人公は大体思弁的かつ表層的な物言いしかしない
6/6

このくだらない大学生活に衝撃を!⑤

 しかし。

 これはいったいどういうことなのだろう。

 いくら俺が世界に絶望して意味の分からないモノローグを述懐していたからとはいえ(自分で言うのもどうかと思うが)、急に黒髪で緋の目の女の子が現れて「私についてきて」なんておかしな話だ。どう考えてもおかしな話だ。だってこの世界は並行世界なんてないし、ましてや闇の世界とかそういうのは存在しないことになっている世界だからだ。

 では仮にあの子が中二病患者だとして、あの子はなぜこの大学にいるのだろう。この敷地は間違いなく大学の敷地だ。そしてここまで迷うそぶりも見せずに歩いているということは、おそらくこの大学の学生だろう。では、この子は大学生なのか?

 「なあ、おまえは大学生なのか?」

 そういうと、すぐ前を歩いているその子は一瞬立ち止まって、

「 そうとも言えるし、そうでもないとも言える。私のこの身体はその分類に帰属する。でも身体と意識は違う。つまり、今はそういうことにしておいて」

 うーん、このセリフだけだとただの中二病患者なんだけどな、、、とか思いながら、適当に相槌を打つ。

「で、あとどのくらいなんだ?ずいぶん森の中に入ってきたけど、、」

「もう少し」

 俺たちは森林ゾーンのかなり奥の方まで来ていた。ここらへんで血気盛んな大学生がおっぱじめていたら気まずいなあなどといらぬ心配をしつつ、彼女についていく。

「ついた」

と言われ示されたのは、ホラー映画にでも出てきそうなくらい上手に古びた小さな建物だ。最近の建物っていうのはコンクリートでできた建物が主流のはずなんだが、どうもこの建物は木造建築らしい、まるで田舎の旧校舎のような様相を呈していた。

「ここって、この建物は何なんだ?」

 俺に何の説明もなしにすたすたと中に入っていこうとする黒髪少女を呼び止めて尋ねる。

「大体、ここはどこなんだよ」

 すると、その黒髪少女はくるりと振り返って、

「ここは平常空間との次元の断層。通常この次元への回路は閉じられている。でも特定の能力の持ち主だけがこの次元の断層に侵入し、別次元に遊離できる。わたしはその能力者の一人。つまり、わたしがいないとあなたはこの中に入れない。だからおとなしくわたしについてきて」

 平常空間?次元の断層?

 何を言っているのかさっぱりだ、と言いたいところだが、つい数年前まで俺たちにとっては日常会話だった言語そのままだ。つまり、中二病言語だ。

 さては本当にこいつはただの中二病患者なんじゃないか、そしておれは変な奴に変なところに連れてこられただけなんじゃないかななどと考えていると、

「わたしを疑っている?」

 思わず心を見透かされた気分になる。俺、顔に出してたかな?

 さきほど鷺ノ宮、と名乗ったその黒髪少女は、きれいに切りそろえられた黒髪を揺らして、俺にこう尋ねた。

「あなた、「超弦理論」って、知ってる?」

「え、あ、ああ、名前だけなら。たしか物理学界の一大発見なんじゃなかったか?中身はよくわからんけども」

「超弦理論は最も小さな世界を説明する原理。その計算上ではこの世界は10次元存在することになっている」

「10次元って、、ドラえもんでさえ4次元ポケットなのにか?」

「次元はあなたが考えているように私たちの認識範囲と必ずしも一致しているとは限らない。認識は世界を反映しているとも限らない。つまり、そういうこと」

うーん、まあ、わかったような、わからないような。急に話がややこしくなったな。

「そうか、まあ、とりあえずわかったけど、結局ここはどこなんだ?」

「入ればわかる。ついてきて」



 建物の扉を開けて中に入った瞬間、急にもわっとした、かび臭いにおいがした。

 おそるおそる中に入ってみると、そこには大量の木の棚の中にびっしりと本が並べられ、あたかも図書館のようだ。下にひいてある赤いカーペットとか、木で上手に組まれた内装がその雰囲気をさらに際立たせている。外見とは打って変わって、有名大学(ここも有名大学なんだが)の本キャンパスにある蔵書数ウン百万レベルの図書館を、内装そのままにコンパクトにまとめたような作りになっている。

「すごい量の本だな、、、でも、なんでこんなところに」

「それは後で説明する」

と言いながら、鷺ノ宮は大量の本には目もくれず奥にある階段を昇っていく。

「あ、おい、ちょっと待て」

 それにしても、なんでこんなところに図書館があるんだ?大体、キレイに掃除されたカーペットといい、高級住宅さながらの内装といい、こんな森の中(つっても大学内なんだが)にあるには違和感ありまくりの建物だ。ますます気味が悪い。

 そのあとも2回階段を上がりフロア的には3階に位置する場所に着くと、そこは先ほどまでのように広場のようにはなっておらず、階段の目の前に扉が一つだけあった。

「ついた」

 なんだかいかにも怪しげだな。扉を開けたら異世界ですみたいな展開か?

「入って」

「先に入って、、」

「入って」

 口答えは無駄なようだ。

 しょうがない。まあ大学生活にもほとほと飽きが来ていたし、人生にもそろそろ魅力を感じなくなってきてたし、正直異世界に飛ばされた方がいくらか可能性が広がるってもんだ。よし、開けてやろうじゃねえか。

「じゃあ、開けるぞ」

 変な緊張感に包まれながら、おれは扉を無造作にこじ開けた。




 今思えば。

 あの時、異世界に飛ばされていた方が、よっぽど俺は楽だったんじゃないかと思う。あの時軽い気持ちで扉を開けた自分をぶん殴ってやりたい。

 何も起こらないこと、そのことは、ただその点において、実に幸福な出来事だったんだから。


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